夢の終わりに 第二幕
□潰れた歯車
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不自然に潰れた歯車だ。
既に原形を留めていない。
【表には裏を。生には死を。
絶対的なものにあがらうのであれば、周りを壊すか自分が壊れるしかなかった。】
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わたしは大の字に転がって、
空を眺めていた。
視線の先には今にも降り出しそうな、暗い空。
その厚い雨雲に肘を真っ直ぐ伸ばして拳を掲げ、
呟く。
「……一ツ星神器・【鉄】(くろがね)……」
───ドンッ!
天界力によって呼び出された大砲の弾は、空に吸い込まれるようにみるみる小さくなって、消えた。
更に数発、天に向かって【鉄】を発射してから、
わたしはゆっくり息を吐く。
それだけでも、全身についた傷がギシギシと痛んだ。
しかし、すぐに楽になれる。
先刻撃った【鉄】が落ちて来るまで、十数秒。
それがわたしに残された
最期の時間だった。
結局───わたしはこの世界に、なにひとつとして残せなかった。
父も母もいない。
これといった才能もない。
人間界で死んだ天界人には、墓すら作られることはない。
加えて、わたしを知る者も殆どいない。
これほど未練のない人生も珍しいだろう。
この世の中に生まれてきた、
その意味を考えたことは何度もある。
しかしその答を得ることは、結局出来なかったようだ。
わたしの人生に、意味はない。
未練もない。
しかし
惨めだった。
───そこまで考えたとき、
天が、
この無機質な人生の、
終幕への慈悲のつもりなのか
大きな雨粒がポツリと頬を叩き、
そしてすぐにバラバラと降り出してきた。
雨───
定まらない視界が、更に歪む。
*
「君はもう用無しだ」
そう言われて、殺されかけた。
───何故?
わからなかった。
だから逃げ出した。
もしそこで、明確な答をくれたなら
納得して死ねる理由を教えてくれたなら
私は抵抗しなかったかもしれない。
生きる者として、死を選ぶ気はなかった。
ただ、それより知りたいことがあった。
一体、何が悪いのか。
一体、誰を恨めばいいのか。
───空を見上げる視界にぽつんと、黒い点が見えた。
それがだんだんと大きくなる。
迫ってくるそれは、先程自分が放った【鉄】だ。
どうやら本当に、これで最期らしい。
今更怖くなる自分が滑稽だった。
…この世への執着のようなものはなかったが、
気掛かりな友が二人いた。
でもきっと、わたしがいなくとも
あいつらなら大丈夫だろう。
「勝手に死ぬな」ぐらいの苦情は
言ってくるかもしれないが。
既に視界いっぱいに、
【鉄】が
迫っていて
でもこれで
もう何もかも
全て
瞬間、視界に赤いものがちらついて
全身が裂かれるような痛みが衝撃と共に走った。
†
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