擦り切れて小さくなった歯車だ。
随分と使い込まれている。

【思い出は優しいけれど疎ましい。醜い傷跡のようにいっそあの時全て無くしてしまっていたら。】



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「……でも。
ひとつ約束してちょうだい?」

「なぁに?お母さん。」

舌ったらずに問う我が子の頭を胸に抱き寄せ、
母親は優しい声音でこう囁く。


「強くなるのはいいけれど、人を傷つけたら駄目よ?」

「…なんで?」

苦しい、と腕の中で身をよじり、女の子は母親に聞き返す。



「強くなったら、お父さんみたいに戦わなくちゃ駄目なんじゃないの?」

「戦わなくていいの。」

「……そうだな。
そんな時が来なければいい。」


二人を見守る父親も、表情を陰らせてそう呟いた。


「?」



きょときょとと交互に両親の顔を見比べる少女。

そのころはまだ長く伸ばしていた髪が、ふわふわと揺れる。




「お父さん、お母さん。
ごめんなさい、  が変な事言ったの?」




「謝らないで。大丈夫よ。」



「ああ、大丈夫だ。
母さんと、  はお父さんがちゃんと守るから。」





少女の父親が豪快に笑う。







「───だから何の心配も要らないわ。
大丈夫よ、  。」




そして少女の母親は、優しく微笑む。







*




忘れかけた幸福な時間を



何度も
何度も。



壊れたレコードのように

何度も何度も、


何度も何度も繰り返して




そして少女は



名前を無くした。















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