パロディ

□『追いかけてtaxi love』
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次はあいつだ。なんかもういっそ清々しいほどに近寄るな関わるな話しかけるなオーラを発揮しているが生憎この部屋に残るのはあいつしかいない。
俺はその鉄壁そうなオーラを打破するべく覚悟を決めた。
「あの……」
とは意気込んだものの、あまりの近寄りがたい雰囲気にちょっと弱気に声をかけた。
眼前の男は無愛想な視線だけをちらりと向けて、なんだと言わんばかりに目だけで問う。
濃紺の髪から覗く、エメラルドを連想させるなんとも見事な瞳であるが、絶対零度の冷たさは鳥肌ものだ。目で射殺されそう、いやほんと比喩とかじゃなくそのままの生命的な意味で。
しかも男の俺でもごくりと生唾を飲み込むくらいに脅威的な威力を持つ、アイドル顔負けな整い過ぎている顔立ちだ。
チ、俺は思わず舌打ちした。
イケメンなんてこの世から爆発すれば良いのに。
なんかもの凄い敗北感。
「本日からお世話になるシン・アスカです。フラガ社長は……」
「いない」
「あ、そうなんですか」
見れば分かるだろうと言わんばかりににべもなく言われた。
いやいやいやそんなの俺だって分かってんだよ!
社長がいないのは俺だって見て分かってんだよ!
一拍遅れて沸き上がった息巻くような突っ込みを俺は寸でのところで飲み込んだ。
だってこいつめちゃめちゃ取っ付きにくい。突っ込んだところでスルーされるのは目に見えている。
さっきの返答だって、億劫さを隠しもしない不遜な態度だった。多分、内心で百パーセント舌打ちしてたね、俺には聞こえた。
追い討ちに、答えたんだからさっさと向こうへ行けとばかりに一瞥して、自分の作業に戻る男の姿に俺のこめかみがひくりと戦慄く。
もうなんか帰りたい気分だった。今から帰って無双でもするかな。敵の設定めちゃめちゃ弱くしてから馬に乗って突っ込んでさ。あれ結構ストレス発散になるし、なんて思考を一時トリップさせた俺は現実に戻るべく首を思いきり振ってやった。
駄目だ、無双する前にステラの無双ゲージが溜まる。
「ニート…いらない」って前に言ってたもん。俺の命が危うい。
「あの……俺、なにしてたら良いですかね?」
「……空いてる席はあそこだ。そろそろ来る」
「えーっと、座って待ってろってことですか?」
「……別に、立っていたいなら構わないが、ここにいられても気が散る」
「……さいですか」
それはスミマセンね。
鬱陶しげに放たれた言葉に、俺は癇癪を起こしたい気分で指定された椅子まで向かい腰を荒々しく下ろした。
「くっそ……なんなんだこの会社っ……!!」
聞こえない程度に吐き捨てて、俺はいつもの癖で椅子に乗ったままくるりと回転させる。否、回転させようとしたんだけど、動かなかった。動かない椅子だった。
なんかもうそれだけの事なのに無性に虚しくなってじわりと視界が滲んだ。……俺、今ちょっと精神不安定かも。
だが俺は負けない。あきらめたらそこで試合終了なんだ。
安西先生!ステラ!
俺に力を!!

健気にも自分で自分に渇を入れた時だった。
重い空気を切り裂くかの如く、軽快にドアが開いた。


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