パロディ

□『スマイル0円』
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「あす兄!マック行こーぜマック!はんばーがー!」

とてとてと階段を上る音が聞こえたかと思えば、今から一時間ほど前に元気よく公園に出ていったはずの弟が勢いよく部屋のドアを開け放ってきた。
今日は日曜。学校もなく部活もなく、自室で読書時間を満喫していたアスランは転がるように飛び込んできた一回りも歳下の弟に顔を向ける。

「早いなシン。もう帰って来たのか?」

もっと遊んで来れば良かったのにと、言外に含めてアスランは手にしていた本を閉じた。
決して弟を疎んじているわけではないのだが、いかんせんこの弟は悪餓鬼過ぎてアスランの手に余る。
可愛くはあれど、出来るならば休日の昼くらい大人しく友達と遊んでいて貰いたいと言うのが本音だった。

「そんなのいーから早くマックにつれてけよ!」

「この時間にそんなもの食べたら夕飯が入らなくなるぞ。それに、そう言ったジャンクフードは体に悪いから駄目だっていつも言ってるだろう?」

「うっせー!ごたくは良いから早くしろよ!オレは今どうしてもハンバーガー食べたい気分なんだ!ハンバーガーハンバーガーハンバーガー食べたい!ハンバーガー!」

じったんばったんと地団駄を踏みながらシンは部屋の中で暴れまくる。
こうなってしまってはこの弟を大人しくさせるのは困難極まりなくて。
長年の経験からアスランはげんなりと溜め息を吐いた。
どうしてこうも我が儘に育ってしまったのか。おまけに口も悪いし。小生意気に意味も分からないくせに覚えたばかりの難しい言葉を使いたがる。
保育園児の分際で「御託」なんて言葉、一体どこで覚えて来たのだか全くもって謎だ。

「仕方ないな。夕飯を残さない条件なら良いぞ」

「よっしゃー!バーガーバーガーハンバーガーっ!!」

小躍りして喜ぶシンに、アスランは苦い息を吐きつつ重い腰を上げたのだった。





「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」

「はっぴーせっと!はっぴーせっとが良い!!」

にっこりと笑みを浮かべる店員に、シンは自分よりも頭上にあるカウンターへと懸命に両手を伸ばしてぴょこぴょこ忙しなく跳ねている。

「シン。セットは多いから単品にしといた方が」

「やだね!オレははっぴーせっとが良いんだ!はっぴーせっとじゃなきゃいやだ!」

この反抗期が……

「……すみません、じゃあアイスコーヒーを一つと、ハッピーセットをお願いします」

「はい、かしこまりました!店内でお召し上がりですか?」

「いえ。お持ち帰……」
「ですてにー下さい!」

「…………は?」

突拍子もなく下から投げられた理解不能な発言に、アスランは眉を寄せて視線を下ろした。
見ると、異様にわくわくと瞳を輝かせた弟の姿。

「で……ですて…?」

「ですてにー下さい!」

「……悪い。何が言いたいのか俺にはさっぱりなんだが」

意味が分からないと首を傾げるアスランに、対応していた店員が「あ…」と小さく声を漏らして、次いで申し訳なさそうな顔になる。

「多分、ハッピーセットに付くオモチャのことかと」

「オモチャ?」

「はい。でもデスティニーは人気があって、ついさっき終了してしまったんです。他のものならあるんですが……」

「ああ。なるほど」

メニューを見てみると、確かにそんな事を書かれている。

「シン。残念だがそのデスなんたらは無いらしい。他のを選んでくれないか?」

「え!やだ!オレはですてにーが良い!」

「そう言われても、ないものはないんだし……」

「やだやだやだ!ですてにーがいい!ヨウランもヴィーノもですてにー持ってたんだ!オレだけ持ってないなんて絶対やだかんな!」

と言うことは、セットの玩具目当てだったわけか。
今日もその二人と遊んでいたらしいから、そこで自慢されて自分も手に入れるべく飛んで帰って来たのだろう。
道理で、と合点はいったものの終了してしまったものは仕方がなく、駄々をこねるシンにアスランは肩を竦めて再度諭そうと試みる。

「ほら、他のもかっこいいじゃないか。こっちの赤いのとかはどうだ?」

「いーやーだ!」

「じゃあ、こっちの青と白の………っ痛!」

「やだって言ってんだろ!何度も言わすなよ!」

「………このっ」

思い切り蹴られて、挙げ句に踏まれた。
園児の力などたかが知れてるが、今のは不意討ち過ぎてまともに食らってしまった。
あまりの生意気な所業に、思わずこめかみがひくつく。

「シン。我が儘言うな」

「うるさい!」

「いい加減にしろ、シン!」

「っ!!」

「あ……」

しまった。そう思った時には遅かった。

「うっ……だ、だっ、て……ですっ……うぅ〜っ!!」

「あ〜。悪い、シン。別に怒ってるわけじゃ……」

「っ、うわああああん!!あす兄が怒ったああああ!!」

「いや、だから怒ってない、怒ってないから。ああ、もう。頼むシン、俺が悪かったから泣かないでくれ……ほら、な?」

「あ、あの……」

「す、すみません。ご迷惑ですよね……シン、ちょっと一度こっちに……」

困惑した表情の店員にはっとして、慌てて謝罪したアスランはとにもかくにも隅の方に移動するべく泣きじゃくるシンの手を引こうとする。
しかしものの見事に振り払われ、これでもかと言うくらいに泣き喚く始末で。
後ろに他の来店者が並んでいないのがせめてもの救いだが、どうにかしなければ店側にも客側にも大迷惑極まりない。

と、その時。

「どうしたんだ?」

スタッフルームまで騒がしさが届いたのだろう、別の店員が驚いたように顔を出す。
光をかき集めたような金色の髪と透き通る瞳がやけに印象的で、顔を向けた瞬間にぱっと目が合ったアスランは、思わずどきりとしてしまった。




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