パロディ

□『蜜夜』
1ページ/6ページ






無駄にだだっ広い豪勢な城の一室で、カリカリと筆を走らせる音だけがこの場に響いていた。
既に日付は変わり、夜も更けに更けた時刻。
申し訳程度の燭(ともしび)のみを卓上で灯(とも)らせ、男は黙々と筆を滑らせていた。
そうして。
どれくらいの時が過ぎた頃だろうか。
その一定の速さを落とす事無く、静かに響かせていた筆の音が止んだのは。


「どうした?」


扉の側で壁に背を預けるように佇み、瞼を下ろしていた彼女はゆっくりと琥珀を覗かせ、顔を持ち上げた。
腰に佩いた長剣の柄を軽く右手に当て、腕を組み合わせた彼女は姿勢はそのままに視線だけを男に向ける。


「切りが着いたから、少し休もうかと思って。君はもう休んでいいよ。すまないな、こんな時間まで付き合わせて」

「いや、私は平気だ。幸い今夜は来客も侵入しなかったようだし」


来客とは刺客の事だろう。国を治める者ともなれば刺客を送り込まれるのは日常茶飯事の事だった。
それらを排除、あるいは始末するのが王の側近護衛である彼女の仕事だ。
だが今日、彼女がその腰に携えた長剣を鞘から抜刀する事は無く。
けれども、ずっと自分が職務に就いている間、気配を殺し、侵入者がいつ現れても対処出来るよう、気を張り巡らせていたのだ。
その疲労は多大だろう。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ