パロディ

□『蜜夜』
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「だが、君はもう休んだ方がいい。あまり気を張り詰めていたら参ってしまうぞ。俺も直ぐに休みを取るから」

「それを私が了承すると?」

「してくれないのか?」

「当たり前だろう。目を離した隙に、もしもの事が起こりでもしたら私は一生悔やみ続けるぞ」


憮然とした口調でスパリと言って、彼女は身を翻して男の元へと歩を進めた。
二人の距離が縮むと男は苦笑を浮かべ、腰掛けていた上質な椅子の背もたれに体重を預け、彼女を見上げる。


「俺はそんなにひ弱じゃないぞ?」

「知ってる。お前の剣の腕もな。だけど、それでも心配なんだ」


澄んだ琥珀の双眸を真っ直ぐと向けて。
こちらが思わず嬉しくなるような言葉とも気付かずに言ってのける彼女に、男は穏やかに瞳を細めた。
目の前の存在が、愛しすぎて堪らなかった。


「……本当に君は、俺を舞い上がらせる天才だな」

「は?」


愛しい人に、こんなにも自分の事を気にかけて貰えて、嬉しくない者などいるのだろうか。
それだけで、どんな疲労も吹き飛んでしまうと言うのに。
抱き締めたい衝動に逆らえず、未だ意味を理解しかねている彼女の細腰に腕を回し、駈られるままに抱き寄せた。
小さな可愛らしい悲鳴が耳元で聞こえても、腕を緩める事は出来そうにない。




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