パロディ

□『誓いの口づけ』
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願うのは、

ただ、
お前の幸せだけなんだ。








祝福の鐘が鳴り響く。
耳を打つこの鐘の音が。
幸福な物だと信じていたのは、いつの頃までだっただろうか。
肌に纏う純白のドレスはほんの少しの一陣の風で、軽快な柔らかさをもって浚われる。
上質なシルクは、どこまでもどこまでも柔らかいと言うのに。
どんな鉄の塊よりも、重く、冷たく、まとわりついた。
爽快な程に晴れ晴れした雲一つ無い空と。
心地よく肌を掠めるような風も。
おいおいと繁る草木も。
全部、全部、心地好いもののはずなのに。
その心地好さに、どうして、と、泣きたくなった。


「カガリ様…」


不意に届いた背後からの声に、カガリのむき出しの肩が微かに揺れた。
もう、時間などほとんど残されてなんかいなかった。
いかなくてはいけない。
そうする事を密やかに決めたのは、もう随分と前からで。
けれども。
まだ、ほんの少しの猶予が自分に与えられるのならば。


「花嫁が…こんな場所にいらしていても、宜しいのですか…?」

「別に良いだろう?まだ式が始まるまで時間があるんだから」


振り向き様、カガリは声を掛けた青年──アスランに答えた。
純白のヴェールが風に乗ってふわりと肌を掠めて漂う。
忌々しい感触だった。
けれどもカガリはそれをおくびにも出さずにドレスの裾を指先でひらめかせ、アスランに悪戯な笑みさえ浮かばせて見せる。



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