パロディ

□『誓いの口づけ』
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悔しかった。
腹立だしかった。
純白のドレスをその身に纏う彼女の姿は、残酷な程に綺麗で。
狂おしい程の嫉妬と嫌悪感が絶えず胸の中を支配していた。

誰の手にも触れさせたくはない。
誰の手にも渡したくなどない。

どろどろと渦巻く醜い独占欲は、絶えず自分の中でうごめいていた。
必死に抑えていたのは、自分の立場を理解していたから。
引き止めの言葉なんて言える資格がないことを分かっていたから。
だからただ、黙って見ている事しか出来なかった。
それで彼女が幸せになれるのならばと、自分に言い聞かせて。
側に在れなくとも、彼女が幸せにさえなってくれればと……


そう思っていたのに。


なのに、
どうしてっ……




「あなたはっ、何をっ……」


一分の躊躇いもなく崖から身を投げ捨てた彼女の手首を寸前のところでアスランは掴んだ。
嫌な汗が滲み出る。
どうして、こんなことをっ……


「アス、ラン……?お前、なんで……」

「それはこちらのセリフですっ……そんな事より、今引き上げますからもう片方の手をこっちに…!」


見上げる彼女の瞳が驚愕に見開くが、アスランは構わず声を張り上げ彼女の言葉をはね除けた。
波風を受けて、彼女のドレスの裾がばさばさと浚われる。
その奥から覗く、激しく水飛沫を散らす荒波に。

もし、彼女がこの海に呑み込まれてしまっていたら……

考えただけで、ぞくりと背筋が粟立った。
それは、今まで感じた事のない恐怖で。



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