本編沿い

□小話集
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愛しくて、
愛しくて。

確かめる。
君の温もりを。


【触れたい】



さらさら
さらさら


沢山の積み重なった書類とにらめっこする君。

一生懸命な君が可愛くて、俺は隣に腰掛け、金色の綺麗な髪を触ったり撫でたりした。


さらさら
さらさら


「…アスラン?さっきから何してるんだ?」


ほんのり頬を染め、
見上げる君。


やっとこっちを向いた。


「髪、綺麗だなって思って」


そう言うと、
更に頬を染める。


可愛い。


「お、お前の方が綺麗だろっ!!」

「そうか…?」

「羨ましいくらいなっ!!」


カガリの言葉に首を傾げると、いまだ頬を紅く染めたままの可愛らしい表情で睨まれた。


「俺はカガリの方が綺麗だと思うけど。キラキラしてて」

「………っ」


そう言って、
また髪を触る。


さらさら
さらさら


きらめく金の髪から、甘い香りが鼻先をかすめた。

それがとても心地よく、日溜まりのように温かくて。

なにより。
頬を染めて少し俯く君が愛しくて、欲求のままに柔らかそうな白い頬に手を伸ばす。


「あ、あすら…っ」

「…嫌?」


勢いよく顔を上げ、困ったような表情で見上げてくるカガリに、首を傾げて聞いてみる。
少しばかり、表情を翳らせて。
そうすると、カガリは弱いと知っているから。
そして案の定、慌てたように首を左右に振ったカガリは、消え入りそうな声でアスランが舞い上がるような言葉を贈ってくれた。


「い、嫌なわけ、ないだろ…アスランの手……好きだ」

羞恥にか、綺麗な琥珀を潤ませながら呟くカガリに、つい頬を緩ませてしまう。


本当に、可愛い。


誰かをこんなに可愛いと、愛しいと思うのは初めてで。
愛しくて愛しくて、もっと触れたくなる。

欲が、募る。

触れたい、と。

もっと、もっと
その温もりを味わいたい。

頬に触れていた指を唇に移して、そっと撫でる。


「…いい?」


狼狽える琥珀を見つめて囁くように確認を取れば、ややあって小さく頷く。
それを確かめて、ゆっくりと距離を詰めるとカガリがぎゅっと瞼を閉じた。


「……んっ」


柔く重ねて。
少しだけ離しては、何度も唇を触れ合わせる。
甘やかな唇に酔いしれながら、次は深く、強く。

余すことなく、絡め取る。


「んっ……ふ、ぁ……」


唇から伝わる熱が、零れる吐息が痺れるようで。
漏れるあえかなカガリの声音に、欲は底知れず更に求める。
角度を変えて、何度も、飽きることなく。
あまりの気持ちよさに、我を忘れて貪るように没頭する。
喉を潤す甘い蜜を、心行くまで味わって。
それでも欲は尽きずに、終わりは見えない。


「あすっ…も、っ」


けれど苦しげに呼吸を乱して、訴えるように袖を握りしめるカガリに気付き、名残惜しくも唇を離した。
直後、耳を奏でる甘い呼気。


「…はぁっ………」


体の力が抜けたのか、腰掛けていた椅子から落ちそうになった彼女を抱きとめ、自分の膝上に乗せぐっと抱き締めた。


「ごめん、つい…」


小さな体を腕の中に収めながら耳元で謝罪の言葉を囁いた。
大切にしたいのに、すぐに我を忘れてしまっては深く求めカガリの事を十分に労れない。
懸命に呼吸を繰り返し息を整えようとするカガリの様子に、アスランは宥めるように背を撫でてやりながら、申し訳なさに瞳を伏せた。
すると、腕の中で身動ぐ気配。
少しだけ腕の力を緩めると、カガリが体を離して見上げてきて。


「…!」


かすめるようなキスを、アスランの頬に送った。


「…カガっ」


彼女からこういった事をするのは滅多になく、アスランは驚き頬を紅く染める。
カガリを見ると、自分以上に頬を染めながらもこちらを窺うように見つめていた。


「謝る必要、ないだろ……私は、アスランなら……その、う、嬉しい、ぞ…?」


途切れ途切れに紡がれる、その言葉に。
アスランは一瞬、理解が遅れるものの徐々に胸に甘く浸透していくのが自分でも分かった。
あまりの幸福感に、緩む頬が抑えられない。


「カガリ……」


アスランは愛しげにカガリを再び抱き締めた。
そうして目についた小さくて柔らかな耳元に唇を寄せ。
彼女だけに届くように、彼女だけに紡ぐ甘い睦言を。
途端に鮮やかに染め上げる愛しい存在に、アスランはこれ以上なく満たされる。


こんなに愛しいと思えるのは初めてで。
こんなに触れたいと求めてしまうのも唯一君だけで。

きっとそれは、これからもずっとたった一人きり。


──カガリだけだ。





2006.12.20
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