本編沿い
□『日溜まりのような君だから』
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幼少の頃から自分は感情を表に出すのが苦手だった。
笑う事はあっても、腹の底から笑うなんて事は無かったし、破顔して笑う事も無かった。
厳しい父の教育からか、物心が付いた頃には泣く事も甘える事も我慢して、感情のセーブを既にコントロール出来ていた。
感情を抑える事。
それは、戦争の時代に飲まれる事でますます上手くなり、そうしている内に自分でも感情の出し方を忘れてしまっていた。
君に出会うまで……
日溜まりのような君だから
自分でも驚いた。
「……くっ……はは…」
「か、蟹がそんなにおかしいかよ!?」
まさかこんな戦時中真っ只中だと言う中で、腹の底から笑いが込み上げてくるなんて。
抑えきれずに吹き出してしまう自分にその原因となった少女は憤慨する。
敵。
少女は自分にとって敵だった。
けれども、殺すのを躊躇ってしまった。
軍に身を投じても、いくら敵だからと言っても殺すのはいつだって躊躇していた。
殺したくはない。殺したくなんてない。戦争なんてしたくない。
それでも敵だから、討たないと討たれるから、守りたいものがあるから、こんな戦争を早く終わらせたかったから、だから感情を押し殺して、何度も、そして何人もの敵を自らの手で殺めてきた。
何度も、何度も、何度も。
だと言うのに…俺は君を殺す事が出来なかった…
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