夢U
□中性リトマス
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死ぬってどんな感じがするんだろう?人は死んだらどこに行くんだろう?
苦しいの?怖い?それとも痛い?それとも辛い?
死ぬ感想なんて、答えられるわけない。
はずなのに、
『イタイ……イタイ……』
『クライ、クライ、』
『ココハ、ドコ?』
(こっちへ、おいで)
『おぎゃあ、おぎゃあ』
私。
死にました。
そして、
生まれ変わりました。
───ボフッ!
「お兄ちゃん朝〜!!」
「ぐぇっ………、」
夏布団の上に降ってきた重み。夢世界に旅立っていた俺には耐え難い衝撃が背中を通して腹まで響く。
毎日毎日目覚まし変わりが妹ののしかかりだなんて洒落にもならない。いつか絶対骨折する。
「オカーサンが朝ご飯食べてってよお兄ちゃん!」
「おまっ……!少しは加減ってモンを覚えろっ、うー痛っ;」
「遅くまで寝てるお兄ちゃんが悪いの!いーよね専門学校は、授業始まるの遅くてさ!」
「はぁ……、恋梅……?始まるの早いけど終わるの遅いんだよ?」
「それでも恋梅は宿題がないお兄ちゃんがうらやましくてならない」
朝っぱら(と言っても既に十時半を回っている)からよくもまあ下らない会話で膨れっ面に慣れたものだウチの妹は。
背中にのしかかる妹を無視して起き上がる。
無理矢理起きた所為でベッドから落ちかけた妹を片手で掴んで顔面から床に降ろしてやった。
えぶ、なんて変な声を出して顔面逆立ち状態になる妹を笑い飛ばし、跳ねた髪をばりばりと掻きながら朝食が用意されているリビングへと向かった。
「あら、我が家のお兄さんはやっとお目覚め?」
「………んー、おはよ、母さん。今日もまた清々しい朝だよ、恋梅のタックル並の威力があるのしかかりのおかげでね」
「そうね、今日は恋梅が振り替え休日で助かったわ」
クスクスと笑いながらコップにオレンジジュースを注いでくれる母さん。
笑顔が素敵で、美人で、優しくて、おっとりしてるようでしっかり者の母さん。
俺の自慢の母さんだ。
けれど、
俺は私でもある。
俺になる前、私のママは優しくて、しっかり者で、おちゃめだけどクールで、怒るとパパよりスッゴく怖い人だった。
母さんも、ママも、どちらも、俺私(自分)の産みの親なのである。
オレンジジュースを飲みながらそんな事を考えていると母さんが焼けたばかりのトーストを持ってきてくれた。
トレーの上にはジャムのビンまで乗っている。
「はい、朝ご飯。トースト足りなかったら言ってちょうだいね?焼いてあげるから」
「ん、ありがと母さん」
お礼と共にトレーを受け取ってテーブルに座って食べる。
「んまー……、」
外サックリ、中ふんわりの厚切りトーストに舌鼓を打ちながらテレビ番組を見るのが俺の日課なのだが。
『はーい!!さて、今週の並盛商店街特集は……』
「………母さんごめん、ジュースもう一杯お願いします」
『で…、サマーバーゲン!……と言うわけで…、』
「ちょっと待ってね、はいどうぞ」
「さんきゅ」
毎日点けるテレビから世話しなく聞こえるナミモリと言う4文字。
視覚、聴覚の発達していない赤子だった俺には解らなかったが、幼稚園にあがる少し前には既に理解出来ていた。
ここが、
どこで、
「あ、やっべ、遅刻!」
何の、世界かも。
中性リトマス
第一夜 偽りの家系
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