夢U
□片割れを愛す
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いとしいきみは、
なきひとなのです。
「ん、んー!」
「…………ぐーっ、」
「うー、う!」
───真夏。
蝉が鳴き喚く猛暑の真っ只中、黒曜ヘルシーセンターではある意味死闘とも言える闘いが繰り広げられていた。
何しろ、少女はその小さな身体で出せるだけの力をフルに使い、ボロいソファーに横たわる金髪の少年を起こそうと必死にその体を揺さ振っているのだから。
「………んっんーっ!」
「……ぐおーっ!!」
「………ふ!(イラッ)」
「おやおや……」
べちん!
「………んぁ?なんれすかぁ〜?」
「………う!」
小さな手のひらから繰り出されたビンタは小気味いい音を響かせ犬の頬にクリティカルヒット。
だが、痛くはないのだろうポリポリと頬を掻きながら起き上がる犬はどこをどう見ても寝ぼけている。
「……ん!」
「んぁ?……いーニオイれす、朝メシ…?」
「クフフ……、早く食べないと片付けてしまうそうですよ?」
「っ……!骸さん!」
「う!うー、う!」
「ほら見なさい犬、涙が怒っていますよ?冷めない内にいただきなさい」
「んー!」
涙(ルイ)と呼ばれた小さな少女はピッと小さな腕で台所の方向を差すと早く行けと言わんばかりに犬を睨み急かした。
「クフフフ、朝から賑やかですね……。涙、挨拶がまだでしたね?おはようございます」
「んぅー!んー、ん!」
声に揃えてジェスチャーで挨拶をした。
少女の名前は六道 涙。
現在は養子になり名を変えてはいるが、かつてエストラーネオファミリーのモルモットとして育てられていた子供の生き残りだ。
彼女は実験の際に左目を失い、姉と慕っていた1人の少女を失った時、その声を失った。
「×××」