小説

□本能とは  吸血鬼
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「ハァ・ハァ・・」
甘い吐息がお風呂場に響く。
零は理事長の風呂場で、この憎い本能から必死に負けまいと抗っていた。
「ハアっつ・・ハァ・・ゆう・・き・・」



そのころ、優姫は親友の頼ちゃんと共に部屋のベッドの上にいた。
「どうして今日零いなかったんだろ・・」
「優姫には何も言ってないなんてへんね・・」

「・・っああ!まさか体調が良くないとか?!」
「零君が?」
そういって頼ちゃんが振り向いた向こうにもう優姫はいなかった。





「なんで私気付かなかったんだろぅっ・・馬鹿私って!」
理事長室へと走る優姫。




そのころの零は、気を紛らわすため服を着たままシャワーを浴びて、頭を冷やしていた。
こうでもしなきゃすぐにでも優姫のもとに走りそうな自分を抑えられない。
この前玖蘭の血を飲んでからしばらく飢えは来なかったように思う。
純血の血は濃く、一歩間違えれば毒
そのことが飲んでみてよくわかった。





「・・・ガラガラ!!
・・零?」

「・・っハァ・・ハァ・・ あっ!!ゆっ優姫・・?」
「零?!なんで服着たままシャワー浴びてんの?!風邪ひいちゃうよ!」
そう言って優姫は零の腕をつかんだ。
瞬間、零は優姫を引っ張り壁に引き寄せた。
「いたっ!痛いよ零っ・・・
どうしたの・・?」
零の顔が湯気でよく見えない。
「制服濡れちゃうって!ねぇぜ・・」

そう言おうとした瞬間、零は優姫にもたれかかった。
「ハァっ・ハァっ・・・優姫・・!!!」

このとき苦しそうな零を見て、優姫は初めて状況を理解した。
「零っ・・・・・・・・・・・・・こんなになるまで・・我慢させてごめん・・・」

優姫はそう言って、自ら制服を脱ぎだした
「今日・・全然気づいてあげられなくて・・本当にごめんね零・・・・好きなだけ・・していいから」

優姫は脱いだ制服を水のかからないところへと投げ、零っと言った
「ゆう・・き・・・
ハァっ・・ぅあっ・・っはぁ・・優姫・・・っごめん」
そういうと零は優姫の首筋へと顔を下ろし、もったいぶるように優しくキスをし、舌で舐めてから、その首筋に牙を立てた

「ぅっ・・・っぜろっ・・ぜろぉ、」

自分の血が体内から引いていく感覚。自分の血が、首元で啜られる音。優姫は決して怖くないといえば嘘になる けど、今自分の首元に牙を立てているのは、あの日の怖い吸血鬼じゃない。


幼馴染の、錐生零なんだ
誰よりもこの行為を憎んでいるのは他ならない零自身なんだ


「・・ふっ ハァ・ハァ・・
ゆう・・き」

零は血を吸った後優姫から少し離れた
「零・・もう大丈夫?」
口元に流れるは優姫の血液。ヒトの血液を喰らう、化け物。それがあの夜間クラス、吸血鬼。




「優姫、、どうして・・俺なんかに構うんだよ!
こんなっ・・こんな奴 早く、その血液薔薇で」
「零っ!!!!」
「優姫・・」
「あのね、零はぜんっぜん悪くないんだよ。そう、零は悪くない。
そして零は今、ちょっと困ってる。
風紀委員として、見過ごせないじゃない?」


優姫はそういって、零に微笑みかけた。
「ちょっとって・・・。お前の血を貪ってる俺を、俺は許せないよ」

「零はなにも悪くないんだってば!
恨むなら私を恨めばいいよ!」


そう優姫が言うと、お風呂場に充満した血の香りが一層事の罪深さを物語っていた



俺は血を貪った後も、小さく震えながらもまっすぐ自分だけを見つめている優姫に、愛おしさを感じ、びしょ濡れのブラウス姿と、息づいてほんのり紅く染まった頬、濡れた唇から言葉を紡ぐ優姫に欲情さえしてしまった
そんな本能に忠実な自分は、なんて吸血鬼らしいのだろう。



「優姫・・・・・・俺は・・自分を許せそうにないよ・・・・・・










こんな吸血鬼な俺を」
 

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