頂きもの

□ふたり寄り添って
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ふたり寄り添って




















「ふーっ」



温かい昼下がり。
両腕を高く伸ばし、椅子の背にもたれかかるように体を仰け反らせた。ぐーっと体を伸ばせば、ぽきぽきと固まった体が悲鳴をあげた。
煌々と青白い光を放つノートパソコンを閉じて、膨大な資料に埋まったティーカップに手を伸ばした。
ゆっくりとすすると、もう温くなったアールグレイ。一気に喉に流し込んで、一息ついた。


ようやくこの仕事を片付けることが出来た。今週は特に忙しくて、帰宅してからも休みの日もかなりの量の書類を整理し、まとめなおさなければならなかった。
眠るのも食事を作るのも惜しいほどに切羽詰まっていた。
それなのにここまで早く達成出来たのは、僕の力だけではない。

僕が仕事をしている間、身の回りの世話をしてくれて、僕を支えてくれたルビーくん。
飲まず食わずで部屋中を書類で散乱させるほどに仕事に没頭する僕を見て、何も言わずにそっと片付けを始めてご飯も作ってくれた。
嬉しいことに泊まり込みで朝夕と家事手伝いをしてくれた。
本当に助かった。


ルビーくんはいつも僕の後ろのソファに座って読書をしたり裁縫をしたりと静かに僕を待ってくれていた。いつの間にか眠ってしまうと毛布をかけてくれて、時折熱いコーヒーを淹れ直してくれた。
なんて気が利くんだろう。なんだかお嫁さんみたいだ。
それだけじゃなくて僕が気付いたのは、ルビーくん自身がいれば僕は外出することはなく家に籠って仕事が出来るってことだ。(きっと仕事があっても僕はルビーくんを探しに行ってただろうから)
ルビーくんはそこまで見越して一緒にいてくれるんだろう。
思慮深い…いや思いやりだ。
まあそのかわり一切触れさせてくれなかったけどね。そこもルビーくんの良いところだ。




とにかくルビーくんにはうんとお礼をしなきゃ。




「ルビーくんやっと終わっ…」



そこで僕は話しかけるのを止めた。僕の視界にはすーすーと寝息を立てて眠るルビーくんの姿があった。
きっと温かい陽気に誘われて気持ちいいまどろみを感じていたのかもしれない。

本を床に置いて、縦長のソファに横になって仰向けで眠っていた。
柔らかい材質のそれはきっと温かく、心地良いんだろう。


音を立てずに立ち上がり、そろそろと近づいて、ソファの前に座り込んだ。
じっと顔を覗いた。
幼い中に見える美しく端正な顔。それを際立たせるような長い睫毛。
触れたくなるような白い肌にほんのりと赤みを帯びた頬。
ドキッと大きく心臓が跳ねた。

無防備のその姿はまるで襲って下さいと言わんばかり。


しばらくルビーくんに触れていない。その事実あってか、内に押し込めた欲望が破裂するのに十分すぎるスイッチだ。



これはなんだ……
その、襲ってもいいんですか…?



いやいや、ダメだ。
このダイゴ、恋人の寝込みを襲うなんてあってはならないことだ。


きっと仕事の疲れで頭がぼうっとしているだけさ。
そう。そうに違いない。





「……う…ん」





「!!!」





ルビーくんの口が小さく開いてもごもごと動いたと思えば、ごろりとソファの背もたれに寝返りをうった。少しばかり僕に背を向けてしまったけど問題はそこじゃない。
体勢が変わったときに、ルビーくんの薄く黒いシャツが捲れ上がって、脇腹の白い肌がちらりと見えるんだ。


ドキドキと胸を叩くように大きく鼓動する。たったこんなことで興奮するなんて、どうしてだろう頭がクラクラする。

あの隙間から手を差し入れてすべすべな肌をむにゃむにゃ…。


だめだだめだ!


頭を振って如何わしい考えを振り切ろうとした。でも、これは我慢できない。
仕事のために我慢して気持ちが吹っ飛んじゃいそうだ。
そうだよ。頭の良いルビーくんのことだから、もしかしたらそういう事態になることも考えて僕の家に来てくれたんじゃないか?
ならばこれは不可抗力だ。僕の前でこんな格好で誘ってるんだから、明らかにルビーくんが悪いだろう。

疲れた頭で絞り出した全く筋の通らない考えだ。そう思いつつもゆっくりと捲れてのぞいた白い肌に手が伸びていく。


ちょん、と触れてみると、ピクリとルビーくんの体が動いた。




(ふお…!!)




思わずドキッとして、冷や汗が流れた。
手を引っ込めた、と言うことはまだ理性は残っているということだ。
やっぱりダメだ。
こんなことして機嫌を損ねちゃって、ダイゴさんなんて大嫌いって言われたらその方が僕にはツラい。
そうだよ。そうすべきだ。落ちつくんだ。気が変わらないうちにもう寝てしまおう。

大きく息を吸い込んで吐き出した。胸をさすって自分をなだめる。
床に座り込んで、ふかふかのソファにもたれ掛かった。
横にはすやすやと眠るルビーくん。
なるべく見ないように、捲れたシャツをそろりと戻してあげた。
座席に手をつけば、ぎし、とソファーが軋んだ。そしてそのままルビーくんの美しい黒髪にキスを落とした。




「ありがとう……、大好きだよ」




再び床に座り込むと、ようやく落ち着いてきたようで、段々と眠気が襲ってきた。



ちょっとだけ、

ちょっとだけ眠らせて。

そしたらたくさん遊びに行こう。

ね、ルビーくん……






















ぎし、とソファが軋む音が静かな部屋に響く。
静かになったことを確認してむくりと体を起こすと、すぐに横で眠りに落ちていったダイゴさん。

ふう、と息を吐いた。



「……まったくバカですね、ダイゴさんは。全部口に出てましたよ」





そっと立ち上がって、ソファに寄りかかるように床に座り直す。
ぽっかりと口を開きながら眠るダイゴさんの姿が面白くて、静かに笑った。


そのまま、優しい手付きで水色の髪を撫でた。









「お疲れ様でした…」






















ふたり寄り添って
















  

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