まるマ

□名前
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「陛下」


辛い執務を終え、『大地たつコンラート』がたくさん咲く庭を散歩中の俺。

後ろの方から聞き慣れた声が聞こえたけど…。

…また『陛下』って呼んでる。

何度も『ユーリ』と呼べと言った。

何度も『陛下って言うな』と言った。

なのに…。


「陛下、待って下さいよ」


『陛下』って呼ぶ護衛を無視して、俺はスタスタと歩く。

勿論、コンラッドと反対の方向に。

名前呼ぶまで、今日は無視してやる!


「陛下?」


顔も合わせない俺に、コンラッドは不安そうな声を出した。

べー!だっ。

どんな声出したって無駄だからなっ!


「陛下?」


スタスタスタスタ……


「陛下っ」


スタスタスタスタスタスタ……


「待って、ユーリ!」


ガシッと右手首を掴まれた。

コンラッドは焦っているのか、優しい握り方ではなく、俺が痛いと思うぐらいキツく握っている。


「俺、何かしましたか?」


…そんな顔するなよ。


「別に?」

「では、なぜ…」


…苛めすぎたかなぁ?

コンラッド、なんか捨てられた子犬のような顔してるし…。


「あんたが、『陛下』って呼ぶからだろ」


俺はちょっと拗ねたように言った。

そしたらコンラッドはしばらく固まって、いつもの爽やかな笑顔ではなく、心の底から笑っているような笑顔になった。


「よかった…。本気でユーリに嫌われたかと思いましたよ」

「ンな訳ねぇじゃん!…って、手痛いんだけど…」

「あっ、すみません…」


コンラッドが握っていた右手首を見ると、分かるぐらい赤くなっていた。


「本当にすみません」


それを見て、コンラッドも再び謝った。


「いいよ。俺が意地悪したのがいけなかったし」

「ですが」

「じゃ、これから二人の時は絶対、俺の事を『ユーリ』と呼ぶこと、いい?」


ビシッと効果音がなるかもしれないぐらいに、俺はコンラッドを指差した。


「はい、ユーリ」


コンラッドは優しく微笑んだ。


「と言うか、何でコンラッドは『陛下』って呼ぶんだよ。名付け親だろ?」

「けじめ...みたいな感じですかね?」

「なんだよ、それ。じゃあ俺はコンラッドの事『護衛』って呼ぶぞ?」


ムスッとした顔で宣言すると、コンラッドは苦笑いし、


「それは、嫌ですね…」


と、呟いた。










end






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