妖逆門

□メモ@
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アイツと会うまでは、ごく普通の平凡な日常だった。

そいつは、不壊といった。
黒いコートに長い銀髪。
桜吹雪が舞う中、彼は空に浮かび、紅い瞳が三志郎を見下ろしている。
ちょうど高校の入学式も終わった後で、生徒はほとんど残っておらず、静かだった。

「ゆ、ゆうれい?」

『おい、兄ぃちゃん。俺は幽霊じゃない、妖だ。まぁ、周りは個魔と呼ぶけどな』

「でも、幽霊も妖怪も同じもんだろ?」
(あ、会話できてる)

『幽霊は成仏できない死者の魂のことだ。俺は死んでねぇ』

今のところ、こうして彼と会話ができるのも、姿が見えるのも三志郎だけらしい。
不壊は口許に弧を描いた。

『兄ぃちゃんといたら面白そうだ』
(退屈をまぎらわすには丁度良い)

それ以来、不壊は三志郎の影に潜み、纏わり付くようになった。



不壊という妖は気まぐれで説教好きだ。
三志郎が話掛けても面倒臭いのか、影から滅多に出て来ない。
だが、自分が飽きると、ふらりと現れては三志郎をからかったり、説教をしてくる。

『おい、兄ぃちゃん!起きろ、まだ授業中だぜ』
(うるせぇーな…)
三志郎の鼻を摘んだり、頭を叩いたりして起こそうとする。
挙げ句の果てには、学生の本分は勉強だとか、ぐだぐだと説教を始める不壊。
一度始まったら止まらない。
(マジで殴りてぇ…)
だが、周りを考えると反撃できない。
不壊は三志郎にしか見えないので、周りから見れば、彼が独り言を言っているようにしか見えない。
その為学校だと反論できずに黙っているしかなかった。
むしろこういう時は理由がどうであれ黙っている方が良い。
反論すれば不壊は更に煩くなるだけだ。
(なんで俺、こんな奴に話掛けちゃったんだろう…)
三志郎は入学式の時のことを酷く後悔した。
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