novel

□愛を知らない君
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それはいつもと何ら変わらない、部活の帰りのことだった。



『うっさいわね!あたしが何しようとあたしの勝手でしょ!?今さら親面しないでよ!』

「っ!?」



約束していた本を借りるために後輩である日吉の家に寄ることになった俺は、突然聞こえてきた怒声に驚いて、思わず足を止めた。
それは俺の付き合いで着いてきた岳人も同じだったようで。どちらからともなく顔を見合わせた俺たちは、お互いに首を傾げる。
言わずもがな、目の前にそびえる日本庭園のような立派な家は、何度か訪れたことのある日吉の家で。ちらりと隣を歩く日吉に視線を向ければ、彼は大きく溜め息をついていた。



「…騒がしくてすみません。
どうぞ、気にせず上がって下さい。」

「気にせずって…」

「つか、さっきの声は何だよ?」

「ああ、多分…」



バンッ!
大きな音を立てて、玄関へと続く廊下の先にあった扉が乱暴に開け放たれる。次に俺たちの視界に現れたのは、長い金の髪をした女子だった。見慣れない制服を着た彼女は、見たところ俺たちとあまり変わらないくらいの年齢に見える。



「…やっぱり帰ってたのか。」

『夏物の洋服を取りに来ただけよ。すぐ戻るわ。』



あたしがいるとあの男イラつくみたいだし、
そう続けて、彼女は顔を歪める。
そんな時。日吉の後ろで様子を伺っていた俺と、彼女の視線が初めて交わった。
カラーコンタクトでもつけているのだろうか?彼女の瞳は綺麗な青色で。その金髪とあいまって、日本人離れした顔をしている。
―つまり、彼女の容姿は群を抜いていた。


『なに、友達?』

「部活の先輩だ。」

『…ふーん。』



自分で話を振ったものの、さして興味はないようだ。俺の隣で驚いたように口をパクパクさせている岳人にもちらりと目をやると、彼女は何事もなかったように靴を履き始めた。いくら日吉の家に金髪美人がいたからといってここまで驚く岳人も岳人だが、そんな岳人になんの反応も示さない彼女もどうかと思う。そう感じたのは俺だけではないだろう。その証拠に、日吉が呆れた様子で彼女を見ている。



「いい加減、帰ってくる気はないのか?」

『冗談やめてよ。』

「父さんだって帰って来いって言ってるだろ。なんでそんなに頑ななんだよ。」

『あいつの体裁を保つために戻る気はないっての。じゃ、わたし行くから。』




バンッ、
乱暴に玄関が閉められて、彼女の姿が視界から消えた。岳人が彼女のことを日吉に問いただすのを横目に、俺は先ほどの彼女の瞳が頭から離れなかった。
前に一度、試合に負けてレギュラー落ちしたとき。俺は、彼女のように何もかも諦めたような顔をしていたのだろうか。
そう考えると、彼女の瞳に差す闇は…決して他人事ではなかった。



「妹が、すみません。」

「妹!?」

「え、今の女子がか?」

「ええ、まあ…。」



彼女の名前は若菜というらしい。
歳は日吉の一つ下で、今は都内のフリースクールに通ってるいるという。
"あいつは家族を憎んでる"
そう日吉は言ったけど、きっとそれは違う。ただの勘、と言われればそれまでだけど、彼女は家族を拒む一方で多分何よりも家族を切望しているのではないか。何故かそう、強く思ったんだ。



「それにしても、日吉の妹すごかったな。」

「まあな。」

「ほんとに兄妹かって思ったし。」

「あー…似てはなかったな。」



日吉の家からの帰り道。岳人の言葉に、金髪青瞳の少女の顔が思い出された。
見た目も、そしてきっと中身も、日吉とは似ても似つかない少女だと思う。
勝利に貪欲で向上心の強い日吉に対して、
その妹はひどく曇ったような瞳をしていた。あの少女には支えがいないのだろうか?俺に、長太郎がいたように。つい、そんなことを考えてしまう自分がいる。

このときの俺は、まだ知らなかった。彼女との出会いが、俺に大きく影響するなんて。
彼女が自分にとって、かけがえのない存在に変わるなんて―













欠落した感情

(彼女の瞳が一瞬だけ揺らいだ…なんて、)
(やっぱり俺の気のせいだろうか―?)







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日吉妹=ギャルww
さすが夢!
ちなみに彼女は古武術でなく剣道有段者。





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