TOV

□出会いは
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目の前にいた父親の体がゆらりと揺れたかと思えば
どしゃりとそんな音を立てて地に倒れた。
父親のいた場所から一歩後ろの場所に
長身の男が立っている。
返り血のついた騎士服と
磨かれた鉄のような銀色の髪に
己の父親から流れ出る鮮やかな色をした血と同じ色を
した二対の紅い瞳が特徴的だった。
騎士の男がゆっくりと口を開く。
それが合図だったように己は父親が手にしていた少し小さい錆付いた鎌を手に持った。
その鎌で男に斬りかかろうと思った訳ではない。
ただ持たなければならないように感じただけだった。
男の口から声が漏れる。

「すまない。」

簡潔な謝罪の言葉。
しかしその言葉は自分が受け取るには重すぎる気がした。
ふるふると首を振る。
悲しみなのか後悔なのか幼い自分にはまだ分からなかったが
紅い瞳のそれらの色がうつるのが素直に綺麗だと思った。
地に伏す、もう息をしていない父親を見てから
ありがとうと呟いた。

「・・・何?」

男が怪訝そうに聞き返す。
己の翡翠の瞳から久方振りの涙がぽつりと零れた。

「ころしてくれて、ありがとう。」

男が顔を苦しそうに歪めた。
そしてキツくこちらの体を抱きしめてきた。
泣いているのか、と思ったが男の紅い瞳からは
何も零れてはおらずだたキツく閉じられている。

「アレクセイ・ディノイア。」

きょとん、といきなり言葉を発した男を見れば
苦笑して私の名だ、と優しく言う。

「お前の名は?」

もう一度、瞳を丸くして瞬きをしてみれば
またポトリと涙が一滴床に落ちた。
俺の、可愛い白鳥
そう今は地に伏している父親が言っていたことを思い出す。
己の父親は毎日呪文のようにこれを呟き、
己を殴り、接吻をした。
母親は、もう固まった血溜りの中で見る影もなく腐っていた。

「シュヴァーン。」

独り言のような声で言えばアレクセイは優しく
シュヴァーンの頭を撫でた。
シュヴァーン、アレクセイはそう口の中で転がすように
呟いてからシュヴァーンの翡翠の瞳を見つめた。

「では共に来るか、シュヴァーン。」

鈍い音をたて、鎌が床に落ちた。
ぽろぽろと先程とまった涙がまた溢れ出す。
しゃくり上げながらシュヴァーンは何度も何度も頷いた。

「どうかお傍に。」

自然と言葉は出た。

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