TOV

□忘れてしまえ
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初めて、
レイヴンはユーリの前で泣いた。
本来の自分を捨て、主君を殺した彼は
仲間の前ではいつも通り飄々としていたが
唯一ユーリの前では己を見せた。
いまだしゃくり上げる彼が愛しくユーリは
彼の背に腕を回す。
(俺だけに、縋ってくれた)
そうユーリは歓喜していた。
いつも人を頼ることをしない彼が今唯一己だけに、
己だけを頼りにしてくれているのだと。
ユーリは彼、レイヴンを愛していた。
だからこそ、例え今此処にレイヴンがいるのは
アレクセイのおかげだったとしても
笑顔で彼を抱きしめていられた。
だってアレクセイはもういないのだから。
彼はもうあの愚かな騎士団長のことなど
思い返す必要もない。
なのに、

「アレ、クセイ様っ」

嗚咽交じりに微かに聞こえたあの男の名。
殺してやりたい、とユーリは唇を噛締めた。
もう一度あの男を斬り付けてやりたい、と
レイヴンを抱きしめる腕に知らずと力が篭もる。

「アイツは死んだだろ、レイヴン。」

静かな声で彼に言い聞かせるように言う。
嫌だ、とレイヴンは涙を流す。
綺麗な翡翠の瞳から流れ出る涙の滴を見つめながら
ユーリは微笑した。
そのまま流れてしまえばいい、とユーリは思った。
そのまま涙と一緒にアレクセイの記憶なんぞ
流れてしまえばいいと。

「忘れろよ、レイヴン。俺だけ見てろ。」

彼の顎を掴み目線を合わせる。
ふるふると首をふって目線を合わせないように
しようとするレイヴンに向かって
言葉を紡ぐ。

「愛してる、レイヴン。」

ユーリは綺麗に綺麗に微笑んでレイヴンを見た。

「アレクセイならこう言ったか?」

お前は一生私の道具だ、

レイヴンはユーリにアレクセイを見たように怯えた。
恐れているのに愛してる、レイヴンの愛とはそういうものなのかと
ユーリはレイヴンに口付けながら考えた。

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