wings of words

□深海少女
1ページ/1ページ











「こちらになります。」
 そう言って深影は部屋のカードキーを使い、ドアを開けた。
















深海少女


















「・・・誰?」




 そこには、ワンピースを着てデッキを抱いたまま床に横に寝転ぶ少女の姿があった。顔は床の方へとふせていたが、遊星達が来たことによって顔を2人の方へと向ける。
 目は虚ろで、まるで生きているのに死んでいるようだ。
「・・・俺は、不動 遊星だ。」
 遊星の言葉に少女の目がのろのろと遊星の方へと向くが、すぐに目は床の方へと戻り、そのまま俯せになる。
 それはまるで、来るなと言われているようように遊星には思えた。だがそんなことで引き下がることはない。
「お前、名前は?」
「・・・星宮、嘉穂。」
 とりあえず嘉穂に近づき、ひざまづいて本人から直接聞くために名前を尋ねる。嘉穂は顔を遊星の方へと向けもせず伏したまま、久々に喋ったのか掠れた声で名前を言う。そしてすぐに目をもとの床へと向けた。
「・・・嘉穂、俺と外に出ないか?」
 そう言うが、嘉穂は首を小さく横に振る。
「なら、俺はここにいる。」
 そう言って遊星は嘉穂の隣に座った。嘉穂はそれに、いいとも悪いとも言わなかった。




















 いつの間にか日が傾き、部屋は薄暗くなっていく。


 それまでずっと動かず、しゃべらずで何時間もいた二人。
 暗くなってきたことに気づいて、やっと口を開いたのは嘉穂だった。



「・・・ぃつ、帰るんですか?」
 掠れた小さな声でそう尋ねる嘉穂。
「今のところ、帰る気はない。」
 遊星はそう答え、嘉穂の方を見た。その答えに小さくため息をつく嘉穂。ちょうどその時だった。





「嘉穂さん、遊星さん、お食事をお持ちしました。」
 深影が食事を持って部屋に入ってきた。
「電気もつけないで・・・ずっとそのままだったんですか?」
 苦笑をして電気をつける深影。そして食事をローテーブルに置いていく。
 それを見て、嘉穂はゆっくりと起き上がった。そしてのろのろと食事の前に座る。
(ショックで食事を摂らなくなることはなかったようだな。)
 そのことに遊星はとりあえず一安心する。
 そして自分も、用意された食事に手を伸ばした。





















「まだ・・・帰らないんですか?」
 食事が終わり、ただぼーっと自分のデッキのカードを見ていた嘉穂が、ふと遊星に目を向けて再びそう尋ねる。
「あぁ、帰らない。」
 デッキ調整をしている手を止め、嘉穂を見つめてそう言う遊星。あまりに真っ直ぐ見つめられたので、嘉穂は思わず遊星から目を逸らした。





「・・・なぁ、嘉穂。」
「なん、ですか?」
 デッキ調整が終わり、遊星は広げていたカードをまとめて一つのデッキにしながら嘉穂の名前を呼ぶ。
「決闘、しないか?」
 その言葉にピクンと反応するが、嘉穂は首を横に振る。
(父親のことが、やはりトラウマなのか?)
 人の傷口に塩を塗るようなことを遊星はしたくない。だが決闘をしなければ嘉穂の心の奥深くまで分からない、そう思ったのだ。
「お前が勝ったら、俺は帰る。」
「・・・不動さんが、勝ったら?」
「何もない。」
(・・フェアじゃないな・・・)
 遊星の条件がアンフェアだと感じつつも、自分が悪い条件を突き付けられている訳ではないし、勝てば帰ってもらえるので、嘉穂はトラウマを抱えながらも小さく頷いた。













*


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ