wings of words
□彼女を守るものたち
1ページ/1ページ
(くっ、これじゃあ嘉穂のところに行けない・・・ッ!)
氷の壁に何度か体当たりをしたり蹴り飛ばしたりしたが、氷の壁は砕けるどころか、傷すら入らない。
(どうすれば・・・)
氷の壁に触れながら、どうするか必死に考える。
その時だった。
「ッ、痣が・・・」
突然、痣が光りだす。
それと同時に、嘉穂が落としたシンクロモンスターのカードが光りだした。
(あのカード・・・)
遊星は嘉穂が落としたカードを拾う。
彼女を守るものたち
『貴方が嘉穂の番護(つがもり)だね。』
頭の中に直接響く声。その声は男とも女とも言えないどこか荘厳な、でも優しい響きだった。
「・・・誰、だ?」
遊星がそう尋ねると、カードに描かれた龍が遊星の目の前に現れた。
『姿を現すのが遅れたね。私は嘉穂の使役する氷結界の龍 トリシューラ。』
「トリ、シューラ・・・」
目の前の龍は、まるで氷でできているように見えるのに、どこか温かかい感じがする龍だった。
「・・・番護とは、なんだ?」
『番護とは、嘉穂を護らなければならない者のことだよ。赤き龍がシグナー達を見極め、決める。お前が番護だと言う証拠は、嘉穂のエクストラデッキにあるスターダスト・ドラゴンがそうだ。』
トリシューラの言葉に遊星は目を丸くした。
無理もない。スターダスト・ドラゴンのカードは自分しか持っていないはずのカードだからだ。
『番護とは文字通り番が護るんだ。番なのだから、何か共通のものを持っていて当然だろう?』
遊星が驚いているのを見て、当然のことのようにそう説明するトリシューラ。
『それより今は嘉穂だよ。嘉穂は決闘に対して酷くトラウマ抱えている。だから私が出る前に、皆に伝えるよう言ったんだが・・・どうやらターンが少な過ぎたようだ。』
(じゃあ水影の攻撃の時に聞こえた声は、水影が俺に何かを伝えようとして・・・だが、なぜトリシューラが出る前に・・・?)
嘉穂が決闘に対してトラウマを持っているのは遊星にも分かっている。だがそれは感づいただけであって明確な理由が分からないし、またトリシューラに対して何があるのかなんて尚更分かるわけがなかった。
『私をシンクロ召喚しようとした時に、嘉穂は半狂乱になったね。それは嘉穂の父親のとどめを刺したのが私だからなんだよ。嘉穂は私の手を汚してしまったと思っている。』
「・・・だがそれは邪神達が『遊星、貴方はそれで割り切れた。それに貴方の場合は支えてくれる仲間がいた。一方、嘉穂は敵であろうと情けをかけてしまうような娘だ。それに支えてくれる仲間など、この世界に帰ってきたばかりの嘉穂にいるはずがない。』」
トリシューラの言葉に、遊星は返す言葉が見つからない。
『・・・まぁ、そんなことを考えるより今は嘉穂をどうやってこの結界から出すかだ。この氷の結界は、嘉穂のフェイバリットモンスター、氷結界の守護陣の織り成す結界。これは嘉穂を敵から守るためのものでもあるんだが、今は・・・拒絶の意を表すものとなっているね。』
「嘉穂を救いたいのは山々だ。しかし、どうやってこの結界を・・・?」
『嘉穂の心を開かせればいい。この子が手助けをしてくれる。』
トリシューラがそう言うと氷の結界からすっと通り抜けて出てくる狐のようなモンスター。
『この子が氷結界の守護陣だ。触れてごらん。』
トリシューラの言葉通りに、守護陣に触れる。すると遊星の頭の中に直接声が聞こえてくる。
『貴方が嘉穂の番護ですね!嘉穂を助けてくださいっ、僕達の力じゃもうどうすることもできませんっ・・・』
頭の中で響く言葉だけでなく、守護陣の表情、キュウという鳴き声、全てが遊星に縋るようなものだった。
この世界で一番嘉穂の近くにいただろうモンスターがそう言うのだ。遊星も嘉穂を本当に救えるか不安はあるが、コクンと真剣な顔で頷く。遊星には不安を越える嘉穂を救いたいという強い思いを持っていたからだ。
『では、僕に触れたまま目を閉じてください。僕を通じて、嘉穂と心で会話できます。』
遊星は言われるままに、静かに瞼を下ろした。
*