wings of words

□融解
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 嘉穂・・・・・





 嘉穂・・・



















融解














 何度か遊星が呼びかけると、嘉穂はうずくまって伏せていた顔をのろのろとあげる。
 そこにはどこか透けている、遊星の姿があった。





「どう、して・・・」
「守護陣の力だ。守護陣が、お前と話せるようにしてくれた。」
 驚いたような顔をした嘉穂にそう説明すると、あぁと納得し、再び嘉穂は顔を伏せる。
「・・・嘉穂、いつまで閉じこもっている気だ?」
「・・・・・ぃいじゃないですか。もうダークシグナーとの戦いは終わりました・・・だからもう、私はいらない。閉じこもっていても、別に誰も「この世界に不要な人間はいない。」」
 嘉穂の言葉に割って入り、そう嘉穂の言葉を否定する遊星。その言葉は遊星の信念であり、サテライトにいた頃から唱え続けていた言葉だ。






「・・・私は・・自分の父親を、殺したんですよ・・・私の役目も終わった・・・・・必要なんか・・・」
 遊星の言葉に否定的な言葉を返す嘉穂。
「嘉穂は殺してなんかいない、救ったんだ。それが分かっているから、生きようとしているんじゃないのか?」
「それは違いますッ・・・それは・・約束、しましたから・・・・・」
 約束?と遊星は首を傾げて聞き返す。すると嘉穂は顔をゆっくりと上げた。その顔には、どこか苦しげな表情を浮かべて。
「・・・・・お父さんが、消える前に・・・生きろって言った・・から・・・」
 搾り出すような、震えた声音。泣いてはいないけど、心の中で泣いているような、そんな感じのする声音。




















「・・・なら、ちゃんと生きなきゃ駄目だろ。」
「?私はちゃんと今こうして生きて「そうじゃない。」」
 遊星の言葉の意味が分からず、ただ困惑する嘉穂。それを分かってか、遊星は口を開いた。
「嘉穂の今言っている生きてるは、ただ単純に生きてるということだ。俺が言いたいのは・・・心の方だ。」
 遊星の言葉に、心?とおうむ返しに尋ねる。







「今、お前は生きていて楽しいか?」
 いきなり痛いところをつかれ、何も言えず俯く嘉穂。実際、今の瑞穂には生きることに何の楽しみもない。ただ、父親との約束があるから生きているだけ。




「楽しくないんだろ?」
「・・・ぃいじゃないです「よくないだろっ。俺はお前の生きているのに死んでいる姿、見たくない。父親も、それは同じはずだ。」」
 嘉穂の投げやりな言葉に真っ向から否定する遊星。
「っ、どうしてそこまで私に構うんですかっ?そう思えるんですかッ!?」
 遊星のあまりに真っ直ぐな言葉に耐えられず、嘉穂は頭を抱えて吐き出すようにそう尋ねる。それは半ば拒絶の意を込めたような言い方だった。
 だがそんなことで怯むような性格でない遊星は、むしろ嘉穂に歩みよって嘉穂の正面にひざまずいた。そして嘉穂の肩に優しく手を置き、口を開く。












「俺がお前と、仲間になりたいからだ。」













 遊星のその言葉に、嘉穂の瞳が大きく揺らぐ。
「っそんなの・・・」
 今だ拒絶しようとする嘉穂。







「また失うかもしれないのが、怖いのか?」
「っ・・・」
 遊星の言葉にまたしても嘉穂は心をつかれる。
 遊星が口にしたそれは、父親を失ってから嘉穂が心の奥底で恐れていることだ。



「俺はお前を一人置いて消えたりしない。」
「・・・絶対じゃない。そんなこと・・・・・」
 遊星の言葉に首を横に振り、そう力無く呟く嘉穂。あくまで否定する、拒絶する言葉。だが、その瞳には涙が浮かんでいる。
 父親を倒してから、一度も人前で見せなかった涙だ。










「俺を・・・信じてくれ。」













 嘉穂に真っ直ぐな言葉を、気持ちを伝え、遊星は嘉穂を抱きしめる。実体はないから、温かさはない。



 だが嘉穂の心を温めるには、











十分だった。















 氷の結界が溶けてゆく。



 それとほぼ同時に、遊星も本体の方へと意識を戻し、ゆっくりと瞼を上げた。





『成功したんだね。流石は番護だ。』
 嘉穂が氷の結界を解いたのを見届け、トリシューラと守護陣はカードへと戻っていった。















「嘉穂・・・」
 氷の結界が消えたことにより、ようやく遊星は実体で嘉穂に近づくことができた。
「・・・遊星、さん・・・・・」
 遊星を見つめながら涙を一筋、二筋流し、うなだれる嘉穂。
 遊星はさっきのように嘉穂の前にひざまずき、嘉穂の頬に手を添えて親指で涙を拭ってやる。


「ここを出て、ちゃんと生きよう。お前の父親だって、こんな生き方を望んで生きろと言ったわけじゃないだろう。」





 遊星のその言葉に、嘉穂はコクンと頷き、堰を切ったようにボロボロと涙を流す。今まで堪えていた分の涙が流れているのだろう。
 そんな嘉穂を、遊星はギュッと抱きしめた。







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