wings of words

□突然的な出来事
1ページ/1ページ









「ありがと遊星〜!」
「いや、運がよかっただけだ。」
 商店街からの帰り道。自分の欲しかったぬいぐるみを当ててもらえて上機嫌な嘉穂と、それを見て自分も嬉しくなる遊星。
「お礼に今日の夕飯は遊星の好きなのにするっ!何がいい?」
 笑んだまま遊星を見てそう尋ねる嘉穂に、遊星は答え兼ねる。正確に言うと言うかどうか迷っていると言った方が正しい。
「?遊星、好きな食べ物は特にありません的な?そんな感じ?」
「いや、まぁ・・あるが・・・」
 じゃあ教えてよと苦笑しながら再び尋ねる嘉穂。
 その視線に負けたのか、しばらくして遊星は口を開いた。












「お・・・・・オムライス・・・」
 そう言うと、遊星は顔を赤らめ嘉穂から背けた。
 どうやら遊星の中でオムライスは子供っぽい食べ物というイメージがあるらしく、だからこそ答え兼ねたようだ。
 そんな遊星の様子を見て頭に?を浮かべながら、分かった、オムライスねと言う嘉穂。





「・・・笑わない、のか?」
「?何が?」
 しばらくして遊星がしてきた問いに、何のことか分からず逆に尋ね返す嘉穂。
「いや・・・子供っぽい、とか・・・・・」
「子供っぽい?・・・・・ぁ、もしかしてオムライスのこと?」
「あぁ。」
「そんなことないよ、オムライスが子供っぽいとか。あたしも好きだし、オムライス。それに子供っぽいって言うのは、いい歳こいて景品のぬいぐるみが欲しいってわざわざ人まで巻き込んじゃう、あたしみたいな人のことだよ。」
 自分を指差してニシシと笑う嘉穂。そんな嘉穂を可愛らしく思うと同時に、自分を少し受け入れてもらえた気がして、遊星は少し嬉しく思った。







 そんな時、2人・・・いや1人を見ていた男が1人。













(・・・あの娘だ、あの娘は俺のイメージにピッタリの娘だ!)



















突然的な出来事





















(はぁ・・・重たいなぁっと。)
 遊星にぬいぐるみを当ててもらった日から3日後。食品の買い物が終わり、嘉穂は多量の買い物袋を何とか持ちながら家へと向かっていた。
 いつもなら遊星が一緒なのだが、今日は遊星が徹夜続きを終えて死んだように寝ていたので頼むわけにもいかず、またジャックはカーリーに付き合わされてどこかに行ってしまったし、クロウは仕事。
 つまり嘉穂が自力で買い物するしかなかったのだ。







(よりによって誰も手伝えない時に食材がきれるなんて・・・街中じゃ精霊達にも手伝ってもらうわけにはいかないし・・・・・にしてもこれだけの食料品が1週間で消える・・・・・男の食べる量ハンパなくてなんか恐い、あんな細いのになんであたしより食べるの!?あたしすごい悲しいんだけど!!?)
 自分1人で勝手に落ち込む嘉穂。落ち込んだついでに荷物をおろして少し休憩もする。
(はあぁ・・・やっぱり遊星が起きてからにすればよかったか「ちょっと君。」・・・・・ん?あたし?)
 声のした方を一応向く。すると、そう君だよと言われ、ある男が近づいてきた。





「大変そうだね、手伝おうか?」
 そう言いながら嘉穂に近づいてきたのは、とても顔が整った好青年だった。
(綺麗な顔だなぁ・・・・・って、何考えてんだよ私!)
「だ、大丈夫です。家まであと少しなので・・・」
 知らない人にはとりあえず頼りたくない嘉穂は外向けスマイルでそう言い、買い物袋を持ってその場を立ち去ろうとした。









 が、それは青年に手首を捕まえられたことによって断念された。
「ぁあの・・・?」
「ますます気に入ったよ、その感じ。やっぱり君にする。」
「?」
「君、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
























 午後5時過ぎ。徹夜続きの身体を朝の7時頃に寝かせ、ようやく起きた遊星は、目を擦りながら部屋を出た。
 そこである異変に気づく。


 この時間、いつもなら夕飯の匂いが立ち込めるはずなのに今日はそれがない。
 何かあったのか?と思い、遊星は早足でキッチンへと向かった。









「嘉穂、いるのか?」
「ぁ、遊星。おそよう。」
 キッチンへ入ると、いつもこの時間は夕飯を作っているはずの嘉穂が、今日はテーブルの席に座っていた。
 そして視線をずらすと、嘉穂と対面して座っている見知らぬ青年が目に入る。
「あ、お邪魔してます。」
「あ、あぁ・・・」
 見知らぬ青年のいきなりの登場、しかも嘉穂といることに、遊星は少したじろぐ。
 そんな遊星の様子を見て、嘉穂は慌てて口を開いた。
「遊星っ、この人はね「自己紹介は自分でするよ。」」
 説明する嘉穂を制止し、そう言う青年。そして席を立ち、青年は礼儀正しく遊星に向かい合って名刺を差し出した。
「初めまして遊星さん!俺はルティナっていいます。」
「っ、どうして・・俺の名前を・・・?」
「知ってるに決まってるじゃないですか!このネオ・ドミノシティのキングの上、この街を救った英雄なんですから。それに謎が多いイケメンだって、ネットでも凄いですし・・・」
 “まさか嘉穂さんの居候場所に遊星さんがいるなんて”と笑顔で嬉々とする青年、ルティナの言葉にまたたじろぐ遊星。自分がまさかネットで話題になってるなんて思ってなかったからだ。
 嘉穂も知らなかったようで、ちょっと驚いてる。


「・・それで、何の用だ?」
 遊星がそう尋ねると、ルティナはあぁそうだったと口を開く。





「俺、今度大々的にデビューするバンドのヴォーカルやってて、今日は嘉穂さんにお願いがあって無理に押しかけました。」
「嘉穂に?」
「はい!俺のバンドの曲のPVに是非出てほしいんです!」
 その言葉を聞いて遊星は驚く。嘉穂は先程聞いたので、もう驚かない。



「今回の曲、和風な感じで女の心情を歌う歌なんですけど、なかなか曲にはまる女の子がいなくて・・・それで悩んでたら3日前にたまたま嘉穂さんを見かけたんです・・・嘉穂さんは本当に日本のイメージにピッタリで!髪は黒のストレートロングで綺麗だし、肌も白い。まさに大和撫子だ!」
 力説するかの如く遊星に説明するルティナ。しかもだんだんと熱がこもっていって、聞いている嘉穂が顔を赤くしている。
「ルティナさん、私そんなんじゃ「そんなことないですって!」・・・ぅ」
(そんなことあるのにいぃいぃぃいッ!!ってか近い近い!!)
 ルティナに迫られ、若干恐いのと整った顔のせいでドキドキするのとで嘉穂は半ばパニック状態だ。
 そんな時、遊星が嘉穂とルティナの間に入った。お陰で迫られることはなくなり、内心で遊星に感謝する嘉穂。






「・・・それで嘉穂、やるのか?」
「ぇ、えっと・・・」
 それには嘉穂も答え兼ねる。
 自分が役に立つならできるかぎりのことはしたいし、それで遊星達のエンジン開発のお金の足しにもなる。でも自分には自信がない。










「か、考えさせてください・・・」











 結局この日は答え兼ね、返事は後日ということになった。








*


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ