wings of words

□大事なんです
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「遊星、落ち着けよ。」
「・・・俺は落ち着いているが?」
「落ち着いているように見えないからそう言っているんだ。」









大事なんです












 夕方、ガレージでは遊星達3人の他にアキや龍亞、龍可もいた。
 遊星は貧乏揺すりをしながらいつもの約2倍くらいの速さでプログラムを打ち込んでいる。誰から見ても、遊星が落ち着いてないと見れる。
「にしてもさ、嘉穂姉ちゃんがPVに出るなんてびっくりだよ!みんなに自慢しちゃお〜。」
「何言ってるのよ龍亞!嘉穂さんは自分が出てるのを知られたくなくて顔を出さないのよ。」
 龍亞の言葉に龍可がそう言い、“あぁそうだった”と龍亞は苦笑する。
「でも勿体ないわ、嘉穂は可愛いのに。あの顔にさらに化粧なんてしたら・・・」
 アキがうっとりと嘉穂の化粧した姿に思いを馳せる。だが遊星は嘉穂の化粧した姿を想像して、落ち着かないから不機嫌になった。
「頼むから不機嫌にならないでくれ遊星・・・はっきり言ってお前が不機嫌だと恐ェ・・・」
(独占欲強すぎだろ・・・)
 クロウの言葉にまた不機嫌になってないと言い張る遊星。だがやはり誰から見ても、今の遊星はちょっと恐い。
 その時、遊星のケータイが鳴った。嘉穂からだ。素早く電話に出る遊星。


「っ、もしもし・・・」
『ぁ、遊星?今終わったよ。』
「分かった、今から迎えに行く。」
『ありがとう。じゃあ、また後でね。』




 電話が切れると、遊星は立ち上がって自分のDホイールの方へと歩いて行く。そしてDホイールに跨がり、ヘルメットを被った。
「迎えに行ってくる。」
 それだけ言って、遊星は嘉穂を迎えに向かった。


















「今日?今日は衣装合わせしたり、曲のイメージとか演出のこととか聞かされただけだよ。ぁ、あと目だけとか口元だけとかで時々顔出しすることになってた・・・」
 何をしたのかとちょっと興味津々のクロウに聞かれて答えるが、最後のところだけ少し声のトーンが落ちる嘉穂。顔出しNGOKと言われて顔全部が映されないと嘉穂は思っていたので、なんとも騙された気分なのだ。
「まぁ少しなら嘉穂だって分からないだろうし、いいんじゃねーの?」
「そうかなー?髪型はほとんど変えないで出るし・・・」
 PVを見た誰かにばれるのではないかと、嘉穂は恐々としている。
 それにPVにはバンドのメンバーも出演するということで、自分は可愛いわけでも美人というわけでもないのにあんなイケメン達と映ってファンの人達に申し訳なくて、嘉穂はなおさら恐々してしまう。
 そんな不安がる嘉穂に、遊星が口を開く。



「嘉穂なら大丈夫だ。」


 本当は遊星はそんなこと言いたくない。嘉穂の姿を多くの人に見られたくないのに、化粧や着飾ることによってより美しくなった嘉穂を多くの人に見られるなど以っての外だ。
 だが自分の独占欲からの我が儘で嘉穂の頑張りを潰すわけにもいかない。だからこそ、今は嘉穂にそう言うしかないのだ。




「っ・・・ありがと、遊星。そうだといいなぁ〜。」
 微笑を浮かべた遊星にそう言われれば、ニコニコと笑みを浮かべて礼を言う。遊星にそう言われると、心が軽くなった気が嘉穂にはするのだ。


(遊星に言われると、なんか本当にそんな気がする。・・・なんでだろ?)




 その感情の正体に嘉穂が気づくのは、もうちょっと先の話・・・












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