wings of words

□刺激しあって知った感情
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「はい、今日の撮影終了でーす!お疲れ様でしたー!」






刺激しあって知った感情














 PVの撮影が終わり、ざわつく撮影スタジオ。嘉穂もホッと息をつく。



「嘉穂ちゃんって、何かやってた?素人のわりには結構表情とか上手いし・・・」
「そーだよね!嘉穂さんの演技、一緒に撮影やっててちょっとドキッとしちゃうもん!」
 アリアとルティナの言葉にそうですか?と思わず言ってしまう。自分では上手いと思ってないからだ。
「えっと、部活で演劇を高校の時に・・・」
「なるほど、それでな。」
 嘉穂の答えにシスカが納得しながら嘉穂の頭を撫でる。するとルティナがらしくないと言い、シスカとルティナのじゃれあいという名の取っ組み合いが始まった。
「ふ、2人とも・・・」
 とばっちりにあわないように下がる嘉穂。だが下がっている時に、花魁をイメージした裾の長い着物を着ていたせいで裾を踏み、転びそうになった。



 だがそれはハルアが支えてくれることによって阻止される。


「ぁ、ありがと。」
 嘉穂はほっとし、笑みを浮かべてハルアに礼を言う。
 するとハルアは気をつけろとボソッと言い、フイッと嘉穂から顔を背け着替えにいってしまった。




(・・・き、嫌われてるのかな?でも最近はエントランスまで送り迎えしてくれるし・・・・・)
 ハルアの行動がよく分からず、うぅんと小首を傾げる嘉穂。そんな嘉穂を見て何かを悟ったのか、アリアが苦笑をして口を開いた。
「嘉穂ちゃんのこと、嫌ってるわけじゃないからね。ハルアってお喋り苦手だから・・・」
「ぁ、そうなんですか。よかったぁ・・・」
 その言葉に嘉穂はホッとして胸を撫で下ろす。ちょうどその時、メイクと衣装の人に呼ばれて嘉穂はそっちへと歩いていった。メイクを落としたり着替えたりするためだ。
 そんな嘉穂を見送り、アリアは小さく息をついた。





(ファンサービスすらろくにできない不器用なハルアが、送り迎えしたり気にかけたりしてるんだから・・・嫌ってる訳ないよ。)
 そう心の中で呟きながら、ハルアが着替えに向かった方へとかけていき、ハルアに追いつくとハルアの背中を軽く叩いた。
 そのことに一体なんだ?と言うような視線でハルアはアリアを見上げる。


「趣味がいいのは認める。でも嘉穂ちゃんは難易度高いと思うよ?デュエルキングっていう、ライバルもいるしね。」
「っ・・・」
 アリアの言葉が図星だったようで、ほんのり顔を赤らめるハルア。そして分かってると言うように、ハルアはコクンと頷いた。
(本当、分かりにくいようで分かりやすいんだから。)
 そう苦笑しながら、アリアはハルアと共に更衣室へと向かった。















「・・・嘉穂。」
「ぁ、ハルアさん。」
 嘉穂が更衣室から出て撮影スタジオに戻って来ると、ハルアに声をかけられる。
「送ってく。」
「ありがとうございます。」
 ハルアの言葉にニコッと笑みを浮かべて礼を言う嘉穂。
 その笑顔を見てハルアはほんのり顔が赤くなる。それを自分で悟ってか、顔を嘉穂から背けてエントランスへと歩きだした。それを慌てて嘉穂は追いかける。
「ぉ疲れ様でしたぁー!」
 そう撮影スタジオ内に声をかけ、嘉穂はハルアと共にスタジオを後にした。












「ぁ、遊星!」
 エントランスにいる遊星を見つけると、嘉穂は遊星に駆け寄った。
「今日は遅かったな。」
「今日が山だって監督も言ってたから・・・」
 そんな話をしている間に嘉穂の隣にたどり着くハルア。ハルアは遊星を半ば睨むようにして見る。
 そんなハルアを遊星も半ば睨むようにして見た。
 互いに嘉穂のことが好きなのは、ここ数日、短時間だが顔を合わせていたので互いに分かりきっていた。



「?どうか、したの・・・?」
 よく分からないがただならないような空気が流れているのに気づいた嘉穂が、互いに睨み合うように目を合わせている2人を見上げてそう尋ねた。
 その半ば不安げな声音に気づき、2人は目を合わせるのをやめて嘉穂を見た。
「なんでもない。」
「なら、いいけど。」
 遊星のいつもの声音にホッとし、笑みを浮かべる嘉穂。その笑みに2人も薄く笑みを浮かべる。
「じゃあ、帰るか。」
「うん!じゃあハルアさん、また明日。」
 嘉穂の言葉に答えるように、優しく嘉穂の頭を撫でるハルア。そのさりげないボディタッチに、遊星は内心ムッとする。
「嘉穂、行くぞ。」
 そう言ってハルアに張り合うかのように嘉穂の手を握り、エントランスを出る遊星。
 その光景に、今度はハルアが内心ムッとした。




 こんなやり取りをした時、遊星とハルア、


 互いに実感する感情がある。





 “嫉妬”という、


 嘉穂と出会って初めて感じた感情を・・・











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