wings of words

□分かっていても
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 ついにPV撮影が終わり、今は打ち上げ。嘉穂は行くかどうか迷ったが、関係者全員で集まるのも最後なので、行くことにした。













分かっていても














「嘉穂さぁん!明日から毎日は会えなくなるけど、ずっと友達だからねぇ〜!!」
「何かあったらすぐに連絡よこせよ!」
「は、はぃ・・・」
(ルティナとシスカって、絡み酒なのね・・・)
 嘉穂は今、酔っ払ったルティナとシスカに絡まれている。嘉穂と違って20歳以上の2人はお酒を飲んでいるのだ。ちなみにバンドの中で1番年下のハルアも、今ちょうど20歳だ。


「はぁ・・・大の大人が未成年相手に迷惑かけるんじゃないの!」
 そう言ってアリアが2人の首ねっこを掴んで、一言嘉穂にごめんね、と言って退散した。







「ほら、今なら嘉穂、空いてるよ。これから忙しくなってなかなか会えなくなるんだから、言っておいで。」
 2人の首ねっこを掴んだままそうアリアが言葉をかけたのは、1人で飲んでいたハルアだった。
「ぇ・・・」
 アリアの言葉に困惑するハルア。
「でも・・嘉穂は「たとえどんな結果になるか分かってても、自分が本当に大事だと思う思いを伝えるのが、男だよ。」」
 ハルアの言葉を遮ってそう言い、ほら早くとアリアは急かす。少し躊躇したが、ハルアはコクンと頷いて嘉穂の方へと向かった。
















「どうしたの?ハルア・・・」
 ちょっと来てほしいと言われ、打ち上げをしていた店を出て嘉穂はハルアと共に外へと出ていた。
 ハルアは無言で歩いていくので、嘉穂はそれについていくしかない。







 しばらく行ってハルアが止まった場所は、街を一望できる公園だった。
「ぅわぁ・・綺麗・・・」
 思わずそんな言葉を漏らす嘉穂。
「ここが、一番落ち着くんだ。」
 近くのベンチに嘉穂を座らせ、自分も隣に座りながらそう言うハルア。その表情は、いつもより幾分か柔らかかった。
 嘉穂の笑顔を見ながら、ハルアは静かに嘉穂の手を握った。ハルアに手を握られた嘉穂は、なんだ?とでも言うように驚く。
「嘉穂・・・俺は今まで、音楽ぐらいでしか自分を表現できなかった。」
 ハルアが嘉穂の手を握る力が強くする。
「だから、多分初めて音楽以外で自分を表現すると思う。














 好きだ、嘉穂。」









 嘉穂の身体が硬直し、顔が赤くなっていく。ハルアは真剣に嘉穂を見つめていて、目をそらさない。




 だがやがて、ハルアは微かに震える唇で言葉をつむいだ。



「でも・・・付き合えない。」
 ハルアのその言葉に、嘉穂は驚くと同時に頭に疑問符を浮かべる。
 それを悟ったように、ハルアは言葉を続ける。






「嘉穂の心の中にいるのは・・・悔しいが、きっと違う人だ。だから、付き合うことはできない。」
「・・・・・え?」
 予想できなかった言葉に嘉穂は困惑してしまう。
 それを予想していたのか、ハルアは言葉を続ける。
「嘉穂の心の中に好きな人を思い浮かべれば、自ずと分かるはずだ。」
 そう言われ、思わず嘉穂は心の中に浮かべてしまい、そしてその人物が、遊星が心の中に浮かんだことに困惑する。
「そんな・・・私は、そんなつもりなんか「無意識だからこそ、それだけ好きなんだ。」」
 ハルアの言葉に嘉穂は驚いてばかりで、口をぱくぱくとさせる。
 たしかに時々もやついた感情はあったが、嘉穂には遊星を恋愛対象として見ている意識は全くなかった。と言うより、まず嘉穂には恋愛感情が何なのかがよく分かっていなかった。
「嘉穂は、自分の感情を・・・まだ理解しきれてないんだと思う。だから「違う・・・」」
 ハルアの言葉に首を横に振る。顔は俯き、表情は見えない。
「・・・嘉穂?」
「ごめん・・・・・1人にして・・・」
 震える嘉穂の声。ハルアは不安になったが、そっと嘉穂から離れていった。



(違う・・違うよ・・・私は、私は誰かを好きになんか・・・遊星は友達で・・・恋なんて・・・・・ハルアやみんなと同じはず・・・同じ、はず・・なのに・・・・・ごめん、ハルア・・・ごめん、なさいっ・・・・・)
 ハルアがいなくなり、1人で自分のぐちゃぐちゃな感情を見つめる。
 嘉穂はベンチの上で身体を体育座りのように丸め、膝に額をくっつけて、堪えるように嗚咽を漏らした。






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