wings of words

□もしもの話
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『嘉穂、“真野”という苗字に心当たりないか?』
(へ?真野・・・真野ってたしか・・・・・)
 ハルアからのメールに、嘉穂は驚きながらも首を傾げながらメールを返した。














もしもの話












「ゾラさんっ、ちょっと出かけてきてもいいですか!?」
 慌てて店の奥のゾラのもとへとかけてきた嘉穂。珍しく嘉穂が慌てるのを見てゾラは驚く。
「どうしたんだい!?そんなに慌てて!!」
「どうしても会わなきゃいけない人がいて・・・それでっ・・・・・」
 気が動転しているのか、上手く言葉が出てこない。そんな嘉穂を見て、ゾラは突然ふっと笑み、嘉穂の肩に手を置いた。
「行っておいで、どうしても会わなきゃいけない人なんだろ?」
 そのゾラの言葉にコクンと頷き、嘉穂は礼を言ってから走って店を出た。















 嘉穂が使っている自転車が無いのに最初に気づいたのは、学校帰りに遊星達のガレージへと来た龍亞、龍可とアキだった。


「珍しいわね、嘉穂って遠出する時ぐらいしか自転車に乗らないのに・・・」




 アキ同様に遊星もそこが引っかかり、ゾラに嘉穂のことを尋ねに行く。
「嘉穂ちゃんなら昼頃に会わなきゃいけない人に会いに行くって出ていったよ。まだ帰ってきてないのかい?」
 “会わなきゃいけない人”という言葉に遊星は疑問を抱く。嘉穂はこの世界で知り合いは本当に身近な、急がなくてもすぐに会えるような人しかいない。なら誰だ?ということになる。
 そう考えていた時・・・











「ただいまぁ〜・・・」
 嘉穂の声。思わずその場にいた全員が顔を上げる。
「ぁあれ?アキちゃんに龍亞、龍可も・・・もう外暗いよ。危ないし早めに帰った方が「それはこっちの台詞よ!!どこに行ってたの嘉穂!?」」
 嘉穂の言葉に割って入り、そう言って嘉穂を抱きしめるアキ。それに戸惑いながらもえへへと笑い、謝る嘉穂。
「とりあえず、無事でよかった・・・」
「そんな大袈裟だよ、アキちゃん。」
 そんな安堵の中、遊星は1つ引っかかるものを覚えた。



 いつもは聞かれればすぐ答えるのに、

 今日は笑ってはぐらかした


 と・・・


















「・・・・・遊星。」
 夜遅く。ジャックもクロウも寝た頃、Dホイールのエンジン開発でまだ起きていた遊星の名前を呼んだのは、何かを迷っているような表情をした嘉穂だった。
「どうした?嘉穂。」
 いつもと違う表情の嘉穂に、遊星は動かしていた手を止め、身体を嘉穂の方に向けて尋ねる。
「ぇと・・・ぅ、ん・・・・・」
 嘉穂の口を開いたり閉じたりと、上手く言葉が出ない。それを早くしろと咎めることもせず、遊星は嘉穂が言葉を作り出すのを待っている。











「・・・遊星は・・・・・もし家族が生きてたら、どうする?」




 唐突な嘉穂の言葉に、流石の遊星も目を丸くした。予想よりも全く深刻ではない、だが答えが出てこない嘉穂の質問。
「ご、ごめんっ!やっぱり忘れてっ、おやすみ!」
 遊星の内心を悟ったのか、嘉穂は笑みながらそう言って自室へと走る。が、その前に遊星に腕を掴まれた。
「その質問には答えが見つからない。だが・・・何かあったのか?」
 そう尋ねられ、遊星の方も向けずに嘉穂は俯く。



 そのままの状態で数十秒。だが嘉穂にとっては、とても長い時間に思えた。
 ようやく、重たい口を開く。
「・・・・・母方の祖父母が、生きてたの。それで、














一緒に暮らさないかって、言われたの。」









 嘉穂から告げられた言葉に、遊星は身体を凍りつかせた。





 嘉穂がここからいなくなるなんて、考えたくもなかった。
















*


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