色々

□頭痛の名前は
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隣で延々と喋り続ける千景に、俺の脳は盛大な痛みを訴えてくる。
溜息を吐いて痛みを少しでも逃がしたくとも、そうするとコイツは遊馬崎や狩沢と違って本当に申し訳なさそうにするからそれはできない。
あの見捨てられた犬のような表情はかなり堪えた。
あんな顔をされて何も思わない奴がいたら……いたか、しかも俺の周りに。
思い出すと更に頭痛が酷くなりそうなので千景の話に耳を傾ける。

「でな、ここからが問題で…」
「おー、そりゃ大変だったな」

千景の奴はよく喋る。
だが空気を読まない喋りではなくて、相手が僅かでも微妙な空気を出したらすぐに話を切り替える。
静かに過ごしたいときは信じられないくらい大人しいし、よくできた奴だ。
遊馬崎と狩沢は爪のアカを煎じて飲むといい。
…話が逸れた。
だから今こうしているのは俺が聞く体制になっているからであって、この頭痛はコイツが喋り続けているせいじゃない。
絶対違うかと言えばそうじゃないが、大本の原因は俺自身だ。

「そのときはノンの勝ち?みたいになったんだけど、モテる男は辛いっつーの?コレ」
「後ろから刺されないように気をつけろよ」
「俺のハニーたちはそんなことしないから大丈夫」
「そうかよ…」

ズキンズキン、と頭痛が大きくなっていく。
ここのところ止むことのない慢性的な頭痛。
千景が俺を訪ねて来るようになったのはゴールデンウイークの一件からすぐ後のことだった。
始めはまた変な奴が増えたとしか思わなかった。
埼玉からわざわざ池袋に来て、世間話をして帰っていく。
ただそれだけで、他に何かあるわけでもない。
そう、そのはずだった。
なのに、いつからだろうか。
話の7割を占める女のことに苛立ちを覚えたのは。
喧嘩の話を聞く度に酷く焦燥を覚えたのは。
いつから、その全ての感情が笑った顔を見た瞬間に消えるようになったのか。

楽しそうに話す千景に自然と手が伸び、触れる寸前で我に帰って手を引っ込める。
不思議そうな顔で見返して来る視線が物凄く気まずい。

「どうした?」
「あー、いや、何でもねえよ…」
「ならいいけど…、俺そろそろ帰るわ」
「おう」

携帯で時刻を確認して共に駅へと向かう。
昼間とはまた違った空気の雑踏を、さっきとは打って変わって静かになった千景と進む。
帰り際の千景はいつもこうだ。
雑踏を眺めているかと思えば、ふとした瞬間に目が合う。
だが用があるわけではないようで、ただ見ているだけらしい。
妙な感じだが俺も似たことをしているので何も言えない。
じゃなきゃ目が合うことなんてあるわけないのだ。
改札まで着いたところで、千景がまた口を開いた。

「じゃ、ここまでだな。また来るから予定空けとけよー」
「ったく、んなホイホイ来ていいのかよ。総長は暇なのか」
「んな訳ねーだろー!ガソリン代だって馬鹿にならないから電車も使ってんだし」

なるほど、バイクを見ないと思ったらそういうことか。
少し疑問に思っていたことが解消されてスッキリした。
けど、それなら…。

「なんでそんなしょっちゅう池袋まで来てんだよ」
「…本気で言ってる?」
「?何がだ」

ムッとした顔で睨まれても意味がわからない。
俺が本当にわからないということを理解したのか、少しすると千景は睨むのをやめて真剣な顔になって俺の目を見つめてくる。

「アンタが好きだから、会いに来てるんだ」

……、…は?
ガツン、と今までで一番大きな痛みが頭に走った。
言葉の意味を理解した頃には既に千景の姿はなく、改札を挟んだ向こう側にトレードマークであるストローハットが小さく見えるくらいだった。
好きって…なんだ。
アイツは女が好きなんじゃなかったのか。
ただの夢か気のせいにしようとしても、痛みを訴えつづける頭によって否定される。
思い出されるのは真剣な瞳と、それを言った直後に真っ赤に染まった千景の表情で。

「あー…くそ」

ありえねえだろ。
いい年した大人があんな餓鬼に振り回されてどうする。
止むことのない頭痛と熱を持ち始めた自分の顔で、この感情を認めるしかないことを思い知らされる。

―アンタが好きだから

「言い逃げんなよ」

おかげで頭痛に悩まされる日が増えたじゃねえか。
今度会ったらアイツが口を開く前に言ってやろうと心に決めて、改札から雑踏へと足を踏み入れた。

END

::::
20話のドタチンがかっこよすぎて漲った結果の門六。
…なのにドタチンよりろっちーの方が男前な気がするのは何故←

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