捧物

□好きなものを言ってみた
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何でこんなことになっているのか。
高尾と宮地は叫びたくなる心を押し殺し、一部始終を知っているであろう木村へと詰め寄った。

「おい木村これはどういうことだ…答えによっちゃ轢くぞ!」
「何なんすかアレ!意味わかんないんですけど!」
「オレは、何も、知らん」

木村は手元のポテトに意識を集中させ、我関せずの姿勢を決めている。
関わりたくない…、と僅かな間で疲れきった木村の背中が語っていた。
練習後の疲れとは違う種類の、哀愁漂う疲弊しきった様子に問い詰めたい気持ちが揺らぐ。
揺らぐが、止めることはできない。
この状況は二人にとっては知らないで済ませられるものではない。
何故、よりにもよって、ファストフード店で、こんな。

「さすがは主将です、どこぞの馬鹿共と違って話がわかる」
「いや、緑間こそ。未だにお前を誤解していた部分があったらしいな」

ノロケ話で意気投合されても!!
二度目の叫びを飲み込み、高尾と宮地は顔を突き合わせる。
何がどうしてこうなったのか。
部活帰りに小腹が空いたからファストフード店に寄った、ここまでの流れに異常はない。
普通に食べ物を頼み、席につき、バスケ関係や勉強について語っていた。
それなのに、二人が新しく飲み物を頼みに行った少しの間で、何故ノロケ話が始まってしまったのか。
緑間の飲み物にだけ悪戯をしたバチが当たったのか。
宮地は木村の肩を鷲掴み、可愛らしい顔を凶悪なものへと変えた。
ギリギリと食い込む指先に木村が悲鳴を上げるが、宮地が気にすることはない。
さっさと経緯を話すように無言で脅している。
高尾は可哀相だなぁ…と同情しつつも、宮地を抑えることはしなかった。彼にとっても死活問題だからだ。
いくら人が少ないと言えど、公共の場で話されたくはないし、自分が聞くのも恥ずかしくて嫌だ。
さあ話せ、話しやがれ、つーか止めろ、と宮地の脅しが増していく、その時。

「ああ言った素直じゃないところ、というか…外見に似合わず強気な部分も可愛いところの一つだな」
「普段とのギャップというやつですか。確かに、高尾も二人でいると妙に意識してしまうのか、可愛いらしい反応を返してきます」
「宮地にもよくあるな。口では色々言ってくるが、離れることはしなかったり。甘え下手な様子も見ていて楽しい」
「甘え下手、ですか。少し違いますが、高尾なんかは誘ってくるときの緊張を精一杯隠した様子が飽きません」

などなど、ノロケ話は本人達がいるというのにヒートアップしていた。
宮地の顔色が青から赤、赤から青など忙しなく変化する。
木村を掴む力も入らず、よろよろと少し離れた座席へと崩れ落ちた。
もう無理、ふざけんな大坪、潰す。
不穏な台詞を呟きながらも、覗く耳は真っ赤だ。
それを大坪は可愛いだろうと緑間に語っている。
人間って羞恥心だけで死ねるのかもしれないな、と木村は少し同情した。
もう一人の中心人物である高尾は、滅多にない緑間のデレに感動していた。
恥ずかしいが、貴重なデレである。
心に刻んでおこう、つーか録音したい!と、話を止めたい心などどこかに捨てた。

「これくらいのことで喜ぶ単純さも、可愛く思えるから重症ですね…」
「お前はもう少し言ってやったらどうだ?言わなすぎると厄介なことになるぞ。一週間くらい無視をされたり、それなのに近くで見つめてきたり」
「そんなことしていたんですか…。高尾は、拗ねることはあっても無視とかはしません。逆にべたべたしてきて困ります」
「困らされることも許せてしまうしな」
「はい」

互いに恋人の状況がわかっていながら、話を切り上げようとしない。
宮地は爆発寸前で、テーブルに伏せたまま震えている。
感動していた高尾も徐々に恥ずかしくなってきたのか、そろそろやめてくんない?と笑顔が引き攣っている。
しかし、大坪も緑間も、まだまだ語り切っていない。
恋人のことを自慢し、共感し、かつてない和やかな雰囲気で楽しんでいる。

「オレ、帰ってもいいよな…」

バカップル2組の間で呟くも誰ひとり気付かない。
妙な孤独感に木村は冷めきったポテトを口へと放る。

この後もノロケ話は長々と続き、更には関係ない自分まで会話に巻き込まれることになった。
翌日は恋人に避けられ続ける2人が見られ、ストレスが少し解消された、と木村は監督に語った。

END

::::
キリ番30000を踏んでくださった壱志人様に捧げます!
緑間と大坪さんのはた迷惑なデレ大会となりました。
緑高と坪宮は全然タイプが違くておもしろかったです(笑)


リクエストありがとうございました!
よろしければお持ち帰りくださいませっ

120608

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