捧物

□つまりは好きってことで!
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「だからっオレが好きなのは若松サンだけに決まってんだろ!」

もう黙っていられねえ!と周囲の視線にも構わず、青峰は立ち上がった。
横で絶望していた二人も、強力タッグで地獄のような空間を形成していた三人も、青峰の突然の行動に目を見張る。
名前を出された若松は特にだ。
驚きを隠さず、呆けたように青峰を見つめる。
あ、可愛い。
地獄に浸っていたせいで、何気ない行動も青峰の目には天使のように映った。
逃がさないと意思を込め、青峰は若松と目を合わせる。
若松の瞳がゆらりと揺れて、そっと口が開かれる。

「あおみ…」
「オレだって黒子っちが一番好きっスー!」
「空気読みやがれモデルもどき!」

開かれたが、黄瀬の告白により遮られた。
青峰は怒りのまま叫び、座席へと崩れ落ちる。
それに構うことなく、黄瀬は黒子の手を取り、いかに自分が黒子のことを好いているかと、口を挟む暇を与えずに伝える。
正直すぎる言葉たちと必死に訴える表情。
険しかった黒子の表情が徐々に赤く変わっていく。
きせくん、と唇が動いた。
握られていただけの手に力を込める。

「もう…わかってますよ」
「黒子っち…?」
「一緒に、帰りましょう?」
「…ハイっス!」

二人で晴れやかな笑顔を交わす。
黒子は「お騒がせしました」と一列し、黄瀬は浮かれた調子で「がんばれ!」とガッツポーズを決めてから席を離れる。
……なんだあのモデルもどきすっげえ腹立つ。
自分と若松の和解を邪魔された上に、いらない余裕を見せ付けられて、青峰のやり場のない怒りは増した。
手を繋いだまま仲睦まじく店から出ていく光景は、今の青峰には少し痛かった。
場に再び沈黙が落ちる。
青峰と若松はタイミングを逃したせいで、お互いに声をかけにくい。
ならばと青峰は期待を込めて緑間に目を向ける。
ここで二人も仲直りをすれば、最後に残る自分たちもやりやすいはずだ。
けれどこの期待は、間違ってはいないが正しくもなかった。
緑間と高尾は既に二人きりの世界を構成していた。

「…なんだこれ」

思わず零してしまった声は仕方のないものだろう。
一言も交わしていないはずなのに、これでもかと赤面して俯く高尾と、それを見て得意げな緑間。
何がどうしてこうなった。
青峰だけでなく、若松も困惑した表情を隠せない。
喧嘩ー喧嘩?ー中にも関わらず、互いに視線だけで意思疎通を図る。
あれ何かわかる?いやさっぱり。
いつもより完璧だった。

「高尾」

緑間がようやく口を開いた。
ビクッと身体を震わせ、高尾はのろのろと顔を上げる。
鋭い印象を与える目許も、今は非常に頼りない。
なァ、お前何したんだよ…。

「わかったか?」
「…うん。あんがと、真ちゃん」
「馬鹿な奴なのだよ、お前は」

展開が理解できねーんだけど。
状況についていけない青峰と若松を放置し、二人は幸せそうに会話に花を咲かせている。
先程までとは逆で、拗ねた緑間を高尾が明るく宥める。
いつもと変わらない、二人の間のよくある風景だ。

「さっさと帰るぞ」
「はいはいっと。じゃ、若松サンとついでに青峰くん、また今度!」

短く別れを告げて、黄瀬と黒子と同じように店から出ていった。
二人がいなくなり、青峰と若松だけになる。
しかし先程のよくわからない空気のせいで、次の行動が思いつかない。
どうしたものか、と青峰が決めかねていると、先に若松が動いた。

「別に、そこまで本気で怒ってねーよ」
「は?」
「悔しかったのと、意地になっただけだ。帰る!」
「おい!?」

言うだけ言って、青峰の顔を見ることもなく、若松は走り去る。
慌てて追い掛けると、さすがは桐皇バスケ部レギュラー。
全力疾走となると追いつくことは中々難しい。
オレじゃなかったら、って話だけどよ。
走る若松との距離を詰め、手を伸ばす。
手首を掴み引き止めれば、真っ赤な顔と対面することができた。
荒い息も含めて見ると何とも言えない感覚が走るが、今は抑えて若松を抱きしめるだけに留める。

「なっ何し…離せハゲ!」
「ハゲてねーよ!本っ当にアンタは面倒くせーな」
「だったら…ッ」
「でも嫌いになれねーんだよ」

暴れる身体を宥めるように撫でながら呟く。
その声に、若松の抵抗が止まった。
青峰は面倒そうな声音で、それでも慈しみを込めて続ける。

「練習出ろ真剣にやれ調子に乗んな、とか何度も何度も言いやがって、しつこすぎんだよ。声でかくてうるせえし、短気ですぐキレるし」
「…文句言いに来たのかよ」

んな訳ねーだろ、と少しだけ身体を離し、若松と目を合わせる。
強気な言葉とは正反対に、情けない表情を見せる彼に青峰は唇を歪めた。
そして、触れるだけのキスをする。

「そんな面倒な奴なのに、こんなことしたくなるくらい…アンタが好きなんだよ。よく覚えとけ」

強気に笑ってもう一度抱きしめる。
今度は抵抗はなく、すんなりと腕の中に収まった。
青峰の背にそっと腕が回される。
そのままゆっくりと上がっていき、そして。

「いい加減に離れろ!」

髪を掴んで、青峰を引き剥がした。
若松はフン、と鼻を鳴らして、痛みを訴える青峰を見下ろす。
見下ろす、といっても身長差などないようなものなので、あくまで気分的なものだが。

「お前は常識を考えろ!外で抱き着くんじゃねえよ!」
「中だったらいいのかよ」
「……仕方ねえからな」

怒鳴り返されると思っていたが、予想外の反応だった。
驚く青峰の顔を見て、若松は満足げに笑った。

「オレだって、その程度にはお前のこと嫌いじゃねーよ」

素直じゃないが、若松なりの最大級の言葉だろう。
青峰は「そーかよ」と頷き、若松の隣に並んだ。

「帰ったらサービスしてくれんのかよ、若松サン」
「誰がするか!」

気が利かねえなぁ。
そう零して、お互いに軽口を叩きながら歩く。
近い距離をゆっくり進みながら、いつも通りに戻れたことに、青峰は心の底から安堵した。

END

::::
40000hitリクエスト企画に乗ってくださった、ふのぼり様に捧げます!
青若(+黄黒+緑高)で続編の仲直り編となりましたが、どうでしょうか。
甘々…になってるといいのですが。
なんだかんだ3CPは仲良くラブラブだと思います(笑)

リクエストありがとうございました!
よろしければお持ち帰りくださいませっ。

120722

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