捧物

□とあるマネージャーの日常
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緑間くんと高尾くんが『そういう関係』だと気付いたのは偶然だった。
マネージャー業に勤しむ傍ら、こっそりと二人を盗み見る。
丁度休憩中だったらしく、端に寄って二人で何かを話しているようだ。
高尾くんが笑いながら語りかけて、緑間くんはそれに適当な相槌を打つ。
態度だけ見れば緑間くんはちょっと冷たい。
けど、表情はいつもよりやわらかく見える。
固く引き結ばれている口許が少しだけ緩んだ。
おお、高尾くんパワー。
なんて関心していると、視線に気が付いた高尾くんがこっちを見た。
ばっちりと目が合う。
すると高尾くんは緑間くんへと一歩距離を詰めて、僕に手を振ってくれた。
へらりと笑って手を振り返す、と、鋭い視線が肌を突き刺した。
恐る恐る視線をずらせば、緑間くんとも目が合う。
はい、こわいです。もう恐怖。あんたはアサシンか、ってくらいの目でした。
やっべ、どうしよう。僕終了のお知らせ?
高尾くんに手を振ったまま、緑間くんの睨みつける攻撃に冷や汗が垂れる。
そう、これが僕が二人の関係に気が付いた理由だった。
この二人、めっちゃ嫉妬深い。しかも無自覚に。
いや、自覚はあるのか。この前部室でなんか揉めてたし、いやーあの時は出るタイミング逃して死ぬかと思ったね。リア充爆発しろ。
でもその自覚は本人たちの間のものだけで、他者に対する行動は入っていない。
高尾くんのさりげない牽制も、緑間くんの容赦ない睨みも無意識なものらしい。
ちょっとは自覚してくれないかなぁ、てか僕どうしようかなぁ。
頭をフル回転させて状況打開を鑑みるが、一向に浮かんでくれない。
このまま部活終了まで過ごすのか、と絶望の足音を聞いていたが、天は僕を見捨てなかった。
天の声ならぬ八百屋の声である。

「おい、オレのタオルどこか知らねえか?」
「きっ木村せんぱああい!地味とか目立たないとか思っててごめんなさい神様!」
「はぁ!?」
「一年に言われてやんの、だっせ!」

手を止め、プレッシャーからも解放される。
半泣きで抱き着くように木村先輩へタオルを差し出し、宮地先輩の笑いに便乗する。
助かった、僕まだ生きてる!
当の本人たちは「真ちゃん、ちょっと顔怖くね?」「お前こそ少し変なのだよ」「え、まじで?」「ああ」などと会話を繰り広げてらっしゃる。
ああ、朝練なのにこの疲労って一体…。
このバカップル、どうすりゃいいんだろ。
僕、同じクラスなのに。緑間くんの隣の席なのに。
放課後の練習が休みなだけ今日はいいかな。
無自覚カップルに大きなため息を吐いた。

::

誰だよ、放課後ないから楽って言ったの。僕か。
楽じゃない、むしろ爆発しそうだ。
僕、なんで教科書忘れちゃったんだろう。
ドアに隠れて教室を覗く。
教室では緑間くんと高尾くんが、仲睦まじく寄り添っていた。
実際は二人で音楽を聞いているだけなんだけど、なんでこんな雰囲気になるんだろうね?
イヤホンシェアなんて友人同士でもよくあることなのに、この二人がやるとカップルの儀式みたいになる。僕よくわからないよ、助けて姉ちゃん。
二人の空気に当てられて倒れてしまいそうだが、教科書奪還を果たすまでは倒れられない。
どうやら高尾くんのオススメ曲発表会らしい。
音楽プレイヤーを弄りながら解説を入れ、緑間くんが頷いて先を促す。

「そんで、これなんかは特に真ちゃんが好きそうだなっと」
「ああ、…嫌いではないのだよ」
「だよなー!それとこっちが…」

普通だ、普通の会話だ。でもなんか甘い。
真ん中で握られている手も恋人繋ぎだし、ラブラブだ。
身長差もあって、イヤホンが突っ張らないようにと緑間くんは少し前屈みになっている。
逆に高尾くんは背筋を伸ばすようにして、緑間くんとの距離を近付ける。
いじらしいというか、なんというか。
偶然目撃してしまったキスシーンでも、屈む緑間くんと背伸びする高尾くんとで二人の関係性を見せ付けられたしなあ。
あ、いや、事故であって故意で見てはいないんだ。
自分に勝手に言い訳をして、二人の成り行きを見守る。

「こんなもんかね。あ、少しは休憩できた?」
「何?」
「真ちゃん最近疲れてたっしょ。部室休みつっても自主練はするから、その前に休憩してもらいたかったんだけど」

どう?と首を傾げる。
緑間くんは何回か目を瞬かせて、はぁ、と息を吐いた。
それは呆れとか疲れとかじゃなくて、何かを抑えるために出したように見えた。

「高尾」
「んー…ってうお!?」

叫ばなかった僕がんばった。
緑間くんが隣の高尾くんを引き寄せて、力強く抱きしめる。
何?緑間?え?と慌てる高尾くんだが、その手は背へと回っている。
高尾くんの肩に顔を埋めるようにして、緑間くんはもう一度息を吐く。
テーピングのされた手で高尾くんの髪を梳きながら、抱き合う距離が縮まった。

「休憩なのだよ」
「緑間?」
「この方が落ち着く。だから、大人しくしているのだよ」
「…了解」

緑間くんに隠れて高尾くんの表情は見えないが、声だけでなんとなくわかった。
いつだか見た、とろけるような顔で笑っているのだろう。
本当、ラブラブだなあ。
緑間くんがツンデレとか嘘だよ、デレデレだよ。
気付いてないのは本人ばかり、っていうね。
教科書は諦めることにして、音を立てないように教室から離れる。
ここで見つかっては、高尾くんの気遣いが台なしだ。
恋人の邪魔をする趣味もないし。
僕も恋人がほしいなぁ。
彼女いない歴イコール年齢は寂しい。
イチャイチャしてもうさー!いいな!


次の日、ついうっかり「僕も高尾くんみたいな彼女がほしい」と言ってしまい、緑間くんから敵認定されてしまうのだが、その話はまたいずれ。
ちなみに敵ランキング一位は宮地先輩らしい。どうでもいい。
別に高尾くんに惚れているわけではないので、巻き込むのはやめてください。
余所でやってくれないかなぁ、と思うけど、なんだかんだこのカップルが好きな僕だった。

END

::::
40000hit企画でリクエストしてくださったリラ様に捧げます!
第三者視点の甘々緑高、になっているでしょうか。モブ男が疲れているというよりは達観してしまった気が…。しかしモブ男楽しかったです。

リクエストありがとうございました!
よろしければお持ち帰りくださいませっ。

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