捧物

□清涼
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しゃく、と気持ちいい音を立てて冷たい塊を咥内に導く。
纏わり付く暑さに参っていた身体にそれはじんわりと染み込んでいった。
高尾は大きく息を吐いて、真剣な顔つきで呟く。

「オレはアイスをつくった人を尊敬するぜ…」
「昨日はかき氷だったな」
「真ちゃーん、それ言うなよー」

某がりがりするアイスを口に含み、いつも通りケラリと笑う。
オレもあずき色のアイスを食べながら、暑さが緩和されていく感覚に表情を和らげた。
日差しの強さは変わらないのに、弱くなったように思えるのは何故だろうか。
炎天の中を並んで歩く。
暑さから口数の少なくなっていた高尾はアイスにより復活したらしい。
楽しげに話し掛けてきて、また楽しそうに声を上げて笑う。

「アイス一つで簡単な奴だな」
「自分だって似たようなもんのくせに…。たかがアイス、されどアイスって言うだろ?」
「聞いたことないのだよ」

あとお前と一緒にするな、と視線を向けると、アイスの水滴が高尾の指先に垂れるのが目に入る。
高尾が慌てて手を上げようとするが、それよりも先にオレの身体が動いた。
高尾の手首を掴み、自分に引き寄せ、指先を舐めた。
そして、そこで我に返る。
オレは何をやっているのだよ…!
見上げてくる高尾の視線が居た堪れない。
他意はない、無意識だ。と言いたいが、正直それもどうかと思う。
いくら恋人でも突然指を舐める行動はいかがなものか。

「真ちゃん」
「…なんだ」
「アイス食いたいなら普通に言えよ。別に一口くらいあげるって」
「お前の馬鹿さ加減に今日以上に感謝したことはないのだよ」

どういう意味だと喚く声は無視をした。
問題は差し出されたアイスだ。
食べたかったわけではないが、拒否をするものでもない。
むしろ今は勘違いしてもらっている方が助かる。
ごまかすようにしてアイスに囓りつく。
サッパリとした甘さが口に広がる。
差し出した本人は何故か驚いた顔で、オレとアイスを見比べている。
一体なんなのだよ。

「…食わねえと思ってた」
「食べろと言ったのはお前だろう」
「だって真ちゃんってこういうこと苦手そうじゃん」

こいつが馬鹿なことはさっきも実感してわかっているが、それにしても馬鹿すぎではないだろうか。
意外だと一人頷く高尾の口元に、自分のアイスを近付ける。
オレとアイスを交互に見て首を傾げる。

「恋人相手に苦手もない」
「しんちゃん」
「貰うだけは気が引ける。お前も食べるといいのだよ」
「…ん」

一口分を含んで「サンキュ」と笑う。
たったこれだけのことで、とても幸せそうに笑うものだから、こちらが変な気持ちになってしまう。
お前になら、いつだってできることなのだよ。
それを言うとまた笑って、喜びを全身で伝えてくる。

「じゃあもう一口くらいほしいなー」
「交換だぞ」
「へいへい」

炎天下をゆっくり歩いて、互いにアイスを食べさせる。
人の通るのに何をしているのだか。
呆れてしまうが、はにかんだ笑顔を見るとたまには、とも思ってしまう。
夏の暑さは思考を溶かすらしい。
思いつきで触れた唇は、ひんやりと冷たく、甘い味がした。

END

::::
40000hit企画でリクエストしてくださったれい様に捧げます!
食べさせあいということで、夏ですしアイスにさせていただきました。
学校でもちょいちょい食べさせ合ってイチャついてしまえと思います(笑)

リクエストありがとうございました!
よろしければお持ち帰りくださいませっ。

120831

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