捧物

□その恋に融く
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好きってのはオレの一方的な感情で、真ちゃんにも向けてほしいとか、あわよくば両思いとか、そんなことは考えたこともなかった。
切ねえなと思うことはあるけど、隣で相棒みたいな関係でいられる今が幸せで、嬉しかった。
一番とは言わなくても、近い存在でいれてるんじゃないかって、自惚れてたんだ。

『お前を見ていると、イライラするのだよ』

だからこの一言は、さすがに痛かった。
一人寂しく弁当を食べながら、深く息を吐く。
この一週間、オレは真ちゃんを避けていた。
本当は避けたりしたくないけれど、顔を見るとあの時の声が蘇って、いつも通りに接することができないから…仕方ない。
でもあまり露骨に避けると周りに気付かれてしまうから、程々に。
しかしそれだとまた思い出してしまい、と何とも言えない悪循環を巡っている。
オレが勝手に舞い上がって、勝手にショックを受けただけだから、誰にも気付かれたくないが、真ちゃんには気付かれてしまってるだろう。
他の奴と話しているときや、教室から出たときも視線を感じた。

「余計に苛つかせてっかも」

かも、じゃないか。
空になった弁当を片付けて教室へ戻る。
教室に近付くにつれて足が重くなるのは気のせいだ。
意を決して扉を開く。
が、オレの覚悟に反して、真ちゃんは教室にはいなかった。
ぽっかり空いた席に首を傾げていると、背後から予期せぬ声がかかる。

「中に入るなら早くするのだよ」
「うっお…緑間!?」
「騒ぐ暇があるなら…」
「わかってるって!あービビった」

後ろから来るとか心臓に悪すぎる。
慌てて教室に入って真ちゃんに振り向く。
苛立った様子はないのでホッと胸を撫で下ろした。

「緑間も出てたんだな。教室いないなんて珍しいじゃん」
「うるさい」
「え」
「お前には、関係ないのだよ」

冷たい声と表情がオレを見下ろす。
あ、やばい。
つれねえなー、と笑って真ちゃんに見えないよう顔を逸らす。
熱を持ちはじめた目に力を込めて、涙が零れるのを抑える。
だめだ、これはまずい。泣いてしまう。
痛かったのは、実らない恋にじゃない。
拒絶されたからでもない。
自分が真ちゃんの中に存在できないことだ。
少しでも彼の中に、プラスの存在としていたかった。
他より話すクラスメイトレベルでもいいから、真ちゃんに思ってほしかった。
それがオレは苛つきの原因で、関係のない人間で。
真ちゃんにとっては、何も。
泣くのを必死に堪える。
誰にも気付かれてはいけないのに、教室で泣くわけにはいかない。
どうにか、堪えねえと。
震えそうな脚を動かして、一歩を踏み出す。
席まで行けばどうとでもなる。俯いてしまえばオレの表情なんてわからない。
けれど、それはクラスメイトの明るい声に阻まれる。

「高尾と緑間じゃーん。お前らどこ行ってたんだよ、ホンット仲いいな」
「あ、…マジで!? そう見えんのか。オレたちとしては普通だけどな」

なんとか返し、クラスメイトと笑い合う。
今の状態では内容もタイミングも最悪だが、答えないわけにはいかない。
当たり障りのない会話をしながら、真ちゃんが離れるのを待つ。
また関係ないとか言われたら、多分堪えられない。
だから早く、行ってくれよ。

「来い、高尾」
「ちょ!? 緑間!?」

突然腕を取られ、教室から引っ張り出される。
声を上げるも無視され、大股で進む真ちゃんを駆け足で追う。
捕まれた腕が痛い。
テーピングで保護された指先がギリギリと食い込む。
怒ってる。なんで。そりゃオレに苛々したのはわかったけど、怒るならそこだろ。離れたところで、なんで。
混乱している間も真ちゃんの足は止まらない。むしろ早くなっている。
何度読んでも無視され、人気のない廊下までたどり着くと壁に突き飛ばされた。
踏み止まったので身体は打ち付けなかったが、真ちゃんは壁に手をついてオレの退路を塞ぐ。

「緑間、なに…どうした」
「言ったはずだ。お前を見るとイライラすると」
「聞いた、けど」
「だったら、いい加減理解しろ!」

怒鳴られて、呆気なく決壊した。
ぼろぼろと零れる涙は止められない。
わかってる、理解してる。でも認めたくない。悔しい。悲しい。真ちゃんが好きなのに。せめて友達になりたかった。でもダメで、オレは。
慌てたような気配がするが、そんなの知るか。なんで慌ててんだよ意味わかんねえ。

「…っオレが嫌いならハッキリ言えばいいだろ!」
「は?」
「わかってんだよ、そんくらい。だからこっそり離れようとしてんのに…っ、なんでこんなになるんだよ…」
「おい待て。お前、何を言ってる?」
「緑間がオレのこと嫌いって話だろ! オレに言わせんじゃねーよ!」

もう終わりだ、どうとでもなっちまえ。
真ちゃんが何か言うのを遮って泣き喚く。
自分でも何を言っているかわからない。完全に逆ギレだ。

「オレがいつお前を嫌いなど言ったのだよ! 落ち着け!」
「はあ!? お前こそ何言っちゃってんの!? イライラとか、関係ねえとか散々言っといて何!」
「だからそれで嫌いに繋がる理由がわからないのだよ! っ好きな相手が他の奴と話していてイライラしないわけがないだろう!」

オレの耳はおかしくなったんだろうか。泣きすぎて痛い頭が物事を都合のいい形で理解するようになったのかもしれない。
目を瞬かせ真ちゃんを見上げる。
真ちゃんはイライラと、苦虫を噛み潰したような表情だ。

「か、関係ないって…」
「教室から出たお前を探しに行ってたなんて言えるわけないだろう」
「さっきすげえ怒ってた」
「だから…、それは嫉妬と言ったのだよ」
「理解しろってのは」
「これだけわかりやすくしたのに、お前が気付かないから苛立った」

わかるわけねえじゃん…! ツンデレって問題じゃねえ!

「…オレの悩んだ時間と失恋に泣いた涙を返せ!」
「知ったこっちゃないのだよ!」

意味不明な展開にまた泣けてきてしまう。
真ちゃんがイライラしていたのは嫉妬で、突き放した言い方は照れ隠しだった?
なんだよそれ。
つか、あんな空気出されて気付けって無茶だ。
滲む涙を真ちゃんの指先で拭われる。
気まずそうなのはオレと同じで、お互いの空回りっぷりに呆れてもいるんだろう。
壁から背を離して、真ちゃんの胸元に寄り掛かった。
ぎゅ、と身体を抱きしめられる。
ああ、もう、なんだったんだ。

「オレらただのバカじゃん」
「誰のせいだ」
「緑間」
「…それもやめろ」
「うん」

距離を置こうとして、「真ちゃん」と呼べなかった。
やっぱ気付かれていたのか。
久々に音にした呼び名は、ひどく舌に馴染んだ。
真ちゃんがどう思ったかはわからないけど、笑ってくれたからこれが答えだ。

「真ちゃん、大好き」
「ああ」

オレもだ、と返された告白にまた視界が滲む。
でももう泣かねーよ。
笑って、真ちゃんを強く抱きしめる。
遠回りじゃなく空回りをしたが、解決した今ではそれもいいか、なんて。
触れるぬくもりに擦り寄り、もう一度「好きだ」と言って目を閉じた。

END

::::
40000hit企画でリクエストしてくださった胡桃様に捧げます!
両片思いで切→甘ということで、はたして切なくなっているのでしょうか…。
付き合い出しても誤解で空回りするんだろうと思いました(笑)

リクエストありがとうございました!
よろしければお持ち帰りくださいませっ。

120901

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