捧物

□今日はまだまだ
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そんなつもりはなかった、と言えば嘘になる。
だが、自分がここまで欲に忠実な人間だとは思わなかった。
唇を押さえて顔を赤らめる高尾に、オレのスイッチが切り替わる。
ここはオレの部屋で、両親は外泊の予定で、明日は休みで、この衝動を止める理由はどこにもなくて。
低い声で名を呼ぶと、口元を隠していた手が外される。
顕わになったそこに探るように触れ、高尾の顔色を窺う。
さっきまでの動揺はどこにいったのか。
挑発的に笑って首に腕を回された。
頬に手を添えると、ゆるゆると瞳が閉じられる。
一度はわざと音を立てて唇を軽く触れ、次は食むように深く重ねる。
未だに慣れない行為だが、少しの余裕は生まれるようになった。
うっすらと目を開く。
高尾の瞳は強く閉じられ、睫毛は小さく震えている。
余裕ぶっていないで素直になればいいものを。
プライドの問題だ、といつだか言っていたが、こちらからしたら無駄としか思えない。
むしろ――…。

::

「いつまで拗ねてんだよ」
「別に拗ねてないのだよ」
「だったら、その眉間のシワはなんなのだよ」

眉間のシワを伸ばすかのように触れる高尾の手を弾く。
高尾は肩を竦め、「やっぱ拗ねてんじゃん」と笑う。
別に拗ねているわけではないのだよ。
あの後、もう一度口づけようとすると宅配便に邪魔をされ、仕切直しと戻れば電話がかかってきて、今度こそと意気込むと親からの連絡で外に行かなくてはならなくなり、と他にも様々な理由で中断され続けた。
ようやく落ち着いたときには、いわゆる「そういう雰囲気」はなくなってしまった。
タイミングの悪さに文句を言いたくなっても仕方ないだろう。
横に座る高尾はのんきに手元の雑誌をぺらぺらと捲っている。
もう少し何かないのか、お前は。
眉間にシワが寄ってくるのがわかる。
…先の行為ができなかったことが、不満なわけではない。
こうして過ごす時間も心地好い。
ただ、遠い。
ソファに並んで座っているのだから、そこまで距離は空いていない。人半分くらいだろう。
だが、それでも、先程まで腕にあった温もりが、そこにないだけでひどく距離を感じる。
あんまりな思考に自嘲する。
さすがにこれは、重症だ。

「真ちゃん」

甘えた声と共にぽすん、と高尾の頭が肩に乗せられる。
驚いて目を向けると、高尾は瞼を閉じて満足げに笑う。

「高尾?」
「オレってばほんと、愛されてるよな」
「何をアホなことを言っているのだよ」
「なんでここでツンなわけ?デレは?」

ほらデレろ、と訳のわからないことを言いながら身体を擦り寄せてくる。
まったく意味がわからん。
わからない、が。
肩に腕を回し、そのままの勢いで抱きしめる。
空いたスペースが埋まる感覚にホッと胸を撫で下ろした。

「お前はここにいればいいのだよ」
「……っ反則だろ、それ」

シャツを掴み、視線から逃れるように胸に顔を埋めてくる。
自分から言っといて、反則も何もあるものか。
わずかに覗く顔は真っ赤に染まり、どこか悔しそうでもあった。
その表情に、既視感。
そして、沸き上がる感情。

「高尾、顔を上げろ」
「無理、やだ、断固拒否」
「わかった」
「ん…ってオオイ!?」

抱き抱えていた高尾をソファへと押し倒す。
オレに体重を預けていたせいか、簡単に転がってくれた。
高尾は目を白黒させ、オレが近付くと「待った待った!」と制止をかける。

「お前っ今日はもうやんねえって言ってなかった!?」
「気が変わったのだよ」
「つーかここリビング!」
「いいから」

お前は、ここにいろ。
声を低くして、そっと囁く。
反則だ、卑怯だ、と文句を言っているが説得力はない。
背中に回された感触に少し笑い、文句を言う口を塞いでやった。

END

::::
40000hit企画でリクエストしてくださった蕣さまに捧げます!
遅くなってしまい申し訳ありません…!
緑高の甘々ということで、日常的にイチャイチャしている緑高にさせていただきました。

リクエストありがとうございました!
よろしければお持ち帰りくださいませっ。

121010

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