黒子02

□最適温度
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やってしまった、と思った時には既に遅く。
頭に響く鈍痛と保健室の天井、そして自分の情けなさに溜息を吐きたくなる。

「死なないで黒子っちー!」
「死にません」

不吉なことを言って抱き着いて来る黄瀬くんには隠しもせず溜息を吐いた。
背中を2、3回軽く叩いて離れるように促す。
重いし、風邪が移ったら困る。
のろのろと離れた黄瀬くんは酷く情けない顔をしていて、自分の不注意が恨めしくなった。
ただの風邪なのだから、そんな心配しなくてもいいのに。
熱があるとは言え、そこまで高熱ではない。
気付いたカントクに無理矢理寝かされただけだ、と言えば、表情にいつもの明るさが戻ってきた。

「そっか…少し安心したっス」
「心配しすぎですよ」
「恋人を心配したらいけないっスか?」

いけなくは、ないけれど。
恥ずかしげもなく言われた「恋人」という単語に、熱とは違うところで体温が上がった。
改めて言われると、恥ずかしいし照れてしまう。
それを隠すようにして、慌てて違う話題を探す。

「……そういえば、どうして黄瀬くんがいるんですか」
「練習が休みになったから遊びに来たんス。そしたら黒子っちが熱で倒れたって…」

言って、明るさがまた減退していく。
もし彼に犬の耳と尻尾があったら、へにょんと垂れているだろう。
想像したらおかしくなって、つい笑ってしまった。

「笑い事じゃないっスよ!本当に心配ってか、心臓止まるかと!」
「ごめんなさい」

笑っていた内容は違うけれど、心配させてしまったことについてとして謝る。
さっきは思わず照れてしまって言えなかったし。
もう一度謝って小さく笑いかけると、謝らなくていいと言って、頭を撫でられる。
前髪に触れるときに額にも手が触れて、ひんやりとした感覚が気持ちいい。
熱はそんなに高くないはずなのに、どうも頭が働いてくれない。
もしかして熱が上がってしまったのだろうか。
それは困るな…また心配させてしまう。
じっと見つめていると、首を傾げられた。

「どうしたの?何か欲しい?」
「黄瀬くん」
「ん?」
「そのまま、撫でていて欲しいです」
「はいっス!」
「寝たら…」
「ちゃんと送って行くっスよ」

ね?と笑いかけられる。
いつもの笑顔に安心すると同時に、もう一つ。
どうやら本格的におかしくなっているらしい。
さっさと寝て治したいのに、今のこの状況が心地好くてこのままがいいなんて。
絶対に言いたくないし言わないけど、きっと彼にはお見通しなんだろう。
心地好い温度と感覚に、ゆっくり目を閉じた。

END

::::
黄瀬って体温高そうよねーでも手は冷たかったりしたらいいなー、という妄想の結果。

110624

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