黒子

□ラブレターセット
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好きな人とは少しでも関わりを持ちたい。
そんな心で俺は今日も隣のクラスの黒子っちの元へ足を運ぶのだ。

「黒子っちー、国語のノート貸して欲しいっスー」

ドアをスライドさせていつも通り窓際の席にいるであろう黒子っちに声をかける。
どこかに移動だったのか教科書とノートを手にしていた黒子っちは、俺の声にすぐに気付いてこちらへ駆け寄ってきてくれる。
その様子に頬が緩んでしまうのは恋する少年としては仕方のないことだと思う。
それにしてもこの時間は教室移動はなかったような気がしたけど、勘違いだったか?

「次移動っスか?ならタイミング悪かったスね…」
「いいえ、丁度黄瀬くんのところに行こうと思ってたんです。だから大丈夫です」

手渡された教科書とノートを見て、今の言葉に合点がいった。

「そういえば朝に英語の教科書貸してたっスね」
「忘れてたんですか?」
「忘れてたというか、なんというか…」

早く黒子っちに会うことで頭が一杯でした、なんて言えない。
珍しく教科書を忘れた黒子っちに俺が教科書を貸すという、滅多にない出来事を忘れるわけはないのだ。
お礼を言う黒子っちに笑い返して、手元のノートをパラパラとめくる。
少しでも長く一緒にいたくて、他愛ない話題を探す。

「やっぱ黒子っちのクラスの方が進んでるっスね。これなら当たっても安心!」
「そんな理由なら次から貸しませんよ?」
「うっ嘘っス!少ししか本気じゃないからこれからも貸して下さい!」
「…少しは本気なんですか」

くす、と呆れたように小さく笑う黒子っちに心臓が大きく跳ねた。
顔に熱が集まってくるのを感じ、これはまずいとノートを勢いよく閉じる。

「ああありがとう黒子っち!そろそろ授業だから俺戻るっス!また部活でっ」
「え?あ、はい…」

黒子っちの不思議そうな表情も、一緒にいる時間もすごく名残惜しいけれど、このままだとあまりの可愛さに抱きしめてしまいかねない。
慌てて教室に入り机に突っ伏す。
笑顔ではないけれど、それでも確かに笑った黒子っちの顔が頭から離れない…離れたらすごく困るけど。
でも、いきなりは反則…っ。
頭を冷やすために意味もなく借りたノートをめくる。
黒子っちらしい丁寧な字に混ざって、時々ノートの端に丸い生き物のらくがきとありがとうという一言が書いてある。
言わなくてもわかるだろうがあえて言うと、この二つを書いたのは俺だ。
何かを残したくて思いついたこのらくがきは、もちろん黒子っちには不評だった。
ノート提出のことを考えれば当然で、失敗したとその日一日落ち込んだりもした。
それでも習慣になったのは、文句を言いつつも黒子っちがそのらくがきを消さないからだ。
どうしてかはわからない。
けど、黒子っちがちょっとでも俺のことを考えてくれてたりするのかなーなんて、明るく考えてみちゃったりして。
単純に消すのが面倒だったとかも考えられるけど。

「あーあ…」

黒子っちが、好きだ。
どうしようもないくらい好きで好きで大好きだ。
伝えたいのに伝えられる勇気なんてどこにもない。
自分がこんなヘタレだなんて思いもしなかった。
らくがきができるなら、代わりに好きだとでも書ければいいのに。

「前途多難っス…」
「そうだな黄瀬、お前の赤点を逃れる道は前途多難だな」
「……へ?!」
「しかし英語の授業中に他の教科を見るとは今回は余裕みたいだなー。手始めに今のところ訳してみろ」
「ちょっ先生待って…!」
「待たん」

周りを見回せば皆教科書を開いて授業を受けている。
黒子っちのことを考えてて全く気付かないなんて、俺は何をしているんだろう。…恋か、うん。
前の席の友達にページ数を教えて貰い、開くはいいが俺には理解できない文章が綴ってある。
ちらりと先生に目を向けると、答えるまで座らせないという無言の圧力がかかってくる。
若干泣きたい気持ちになりながら、欄外の単語訳を見てどうにかしようと視線を落とすと…

「えっえええーっ?!」
「…黄瀬、廊下に立つか?」
「スマッセン…!でも!ちょっと…ええええ?!」

なんだ、なんだこれ。
先生が何か言っているけど全く耳に入ってこない。
ある一点から目を離すことも、意識を反らすこともできなかった。
欄外の枠の上に一言、俺のよく見る―ついさっきまで眺めていた字で、こう書いてあったからだ。

『好きです』と。

END

::::
このあと黄瀬は一刻も早く黒子に会いに行こうとするけど、職員室に呼び出されたり友達に絡まれたり部活で扱かれたりして中々できなければいいと思います。

100318

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