おはなし
□始まりの木曜日
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冬の風のせいで冷えきったわたしの耳に
コールが
静かに鳴り響く。
自転車の速度は変わらず、
しいんとした夜の道をひとり占領しながら
ふいに留守番電話の案内が流れ始めた時
そういえば今日は彼女は塾がある日だったということに気付いて、
なんだか恥ずかしくなって
慌てて携帯電話をコートのポケットにしまうと
不安と安堵の入り雑じった溜め息をついた。
電話に出なかったにしろ、
たった今彼女の携帯電話にはわたしの着信履歴が残った。
きっと彼女も
何かを察してくれるだろう。
…………たぶん
いや、どうだろう…
…そんなことは
今はいいや。
とりあえず
台詞を考える余裕が出来たから。
わたしは
自転車の速度を速めた。