おはなし

□始まりの木曜日
2ページ/9ページ



冬の風のせいで冷えきったわたしの耳に
コールが
静かに鳴り響く。


自転車の速度は変わらず、
しいんとした夜の道をひとり占領しながら


ふいに留守番電話の案内が流れ始めた時
そういえば今日は彼女は塾がある日だったということに気付いて、


なんだか恥ずかしくなって
慌てて携帯電話をコートのポケットにしまうと
不安と安堵の入り雑じった溜め息をついた。


電話に出なかったにしろ、
たった今彼女の携帯電話にはわたしの着信履歴が残った。

きっと彼女も
何かを察してくれるだろう。


…………たぶん
いや、どうだろう…


…そんなことは
今はいいや。
とりあえず
台詞を考える余裕が出来たから。


わたしは
自転車の速度を速めた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ