小説2

□光合成
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昨日までの寒さが嘘のような暖かさ。
見上げた空は端から端まで青くて、千切れたような白い雲がぽつりぽつりと浮かんでいた。
夏のそれとは違う柔らかな日差しがあんまりにも気持ちよくて、その上気温もちょうどよくて、時々冷たい風が吹くのがまた何ともいえず絶妙で、こんな都合よく条件がそろってしまった日は、どうしようもなく眠たくなるのだった。

「銀さん、良い天気ですよー」

「そうだな」

「こんな良い天気の日に何でわざわざカーテンの締め切った室内に行かなくちゃいけないんですかねー」

「仕事だからだろ」

「よし、帰りましょう」

「何でだよ!」

真面目な顔をしてとんでもないことを言う森田に、銀二は思わず素の反応が出た。
何でだとしか言いようが無い。
しかし森田は拳を握り締めながら、自分が言っていることがいかに正しいことかを示すように銀二に力説した。

「こんな日は昼寝するか日向ぼっこするかに決まってるんです!何が楽しくて日光も何も入らない部屋でムサイ親父と会合しなきゃいけないんですか!勿体無い!時間が圧倒的に勿体無い!」

「それが仕事だろうが!」

「だからその仕事を今から無かったことにしましょう!」

「ただのボイコットじゃねぇか!」

真っ昼間からマンションの前で言い合うド派手なスーツの大人二人は周りにどう見えているのだろうか。
明らかに怪訝そうな顔をした母親が、面白がって不審者二人に近づいてしまわぬようしっかりと小さな我が子の手を引っ張りながら前を歩いていった。
一気に情けなさとやるせなさに襲われた銀二は、自分を落ち着かせるために大きな溜め息を吐いた。

「何だ、いきなり訳のわからないワガママ言い出して」

「だって」

「だってじゃない。今更ごちゃごちゃ言ったってしないといけねぇことは無くならないんだよ。仕事だったら尚更だろ。」

「うー」

「うーじゃない。ほら、巽も来たぞ。諦めろ。」

銀二が示した先では、巽の車が今まさにこちらへと向かっていた。
それでもまだ拗ねたように口を尖らせる森田に、銀二は訳がわからないといった風に首を傾げた。
森田はいつもはしっかりしているのだ。
それなのにどうして時々こんな子どもみたいなことを言い出すのだろう。
でも、こういう柔軟性が森田の強さに関わっているのかもしれない。
しれないけれど、昼寝がしたいは、また別だと思う。

「ほら、迎えが来たんだからもう諦めろ。」

「うー、こういうときフィクサーってのは嫌になります…」

「…また、休みの日にでもすりゃあいいだろ。昼寝でも何でも。もう春なんだから、暖かい日なんてまたすぐ来るさ」

「…肝心の休みがいつ来るかは、わかんないですけどね…」

あーあ、と溜め息を吐きながら、森田は前に停まった巽の車に乗り込んだ。
銀二はあからさまにがっかりしている森田が面白くて、クククと笑いながら森田の後に続いて車に乗った。
暑かろうが寒かろうが晴天だろうが雨天だろうが昼間だろうが夜中だろうが、そんなこと彼らには関係ない。
今日もまた、悪党たちの一日が始まるのだ。


















光合成がしたい森田。悪党だって日光が浴びたい。
銀さんのキャラが掴めません。
もう春ですよ。



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