小説3
□代打ちとニート
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バトンで決まったカプで小話を書こう誰得企画その4「平山×カイジ」
カイジと平山が最初に出会ったのは小さな公園だった。
ベンチに座るカイジの背中がまるで捨てられた子犬のようにしょぼくれていたため、思わず平山が声をかけてしまったのが始まりだった。
話を聞けば、先程バイトの面接に落ち、生活費の当ても無くなってしまったため、これからどうしようかと途方に暮れていたのだそうで。
適当に入った居酒屋で酒を飲みながら話すうち、何故だか気が合い(不憫なとことか)、今ではしょっちゅう会う仲になった。
平山の方が圧倒的に稼ぎがあるので、呑むときは大抵平山のゴチカンだった。平山が言い出したことなのでカイジも素直にそれに甘えていた。ぶっちゃけ助かるのだ。
そんな二人がある日、いつものように居酒屋で酒を呑んでいると、ふとカイジが尋ねた。
「平山さんって何の仕事してるんだ?」
「んー、代打ち」
「代打ち?パチンコ?」
「いや、麻雀の方」
「へぇ…やっぱりヤクザ関係なのか?」
「まぁ、そうなるんですかねー」
「いつもド派手なスーツ着てるから普通の仕事じゃねぇんだろうなぁとは思ってたけど…そっか代打ちかー」
「はい」
「いつからやってるんだ?」
「まだ始めたばっかりですよ。一年たってません」
「やっぱり強いのか?」
「さぁ……結果だけで言ったらまぁまぁなんじゃないですかね」
「ふぅん」
ビールを呑みながら相槌を打つカイジは、代打ちというものがどんなものなのかいまいち理解できてないようだった。
平山も別に説明しようとはしなかった。
ある男の名前を語って麻雀打ってますなんてことも言いたくなかった。
「じゃあ俺からも質問」
「ん?」
つまみの枝豆の皮を剥いていたカイジは何だろうと首を傾げた。
平山は言う。
「カイジさんって、何で俺の事平山さんって言うんだ?」
「え?」
予想外の質問にカイジは不思議そうに目をぱちくりさせた。
さん付けにする理由なんて、ひとつしか無いじゃないか。
「え、俺年上には基本そうなんだけど…」
「だったらおかしいですよ」
「え?」
「俺多分アンタより年下だから」
「ええ?!アンタ何歳なんだよ!」
「18」
「えええええ?!」
まさかの未成年だった。
そんな、ならずっと年下、しかも非成人に酒を呑ませたあげく奢ってもらってたのか?
カイジの視界がショックのせいでぐにゃあと歪んだ。
「……俺、老けてみえるかな?」
「いや、別にそういう訳じゃなくて、何かしっかりしてるし酒も普通に呑んでるから、年上かタメなんだろうなぁって勝手に俺が思ってただけで………え、嘘だろ……未成年……?」
今までずっと未成年と酒を呑み、悩みを聞いてもらい、励ましてもらい、金を貸してもらっていたのか。
何て情けない!クズ!駄目人間!社会の敵!
「……ガキと呑むのは嫌ですか…?」
あまりにもカイジが絶望的な顔をしていたのか、平山は不安そうに顔を除き込んできた。
「いや、そういう訳じゃ……」
カイジは困惑しながらも否定するように手をぶんぶん振った。
よく見ればまだまだ少年の面影を残した顔をしている。
サングラスに隠された瞳は大きく、まつ毛は長かった。
明らかに自分よりも幼い。なのに何故今まで気が付かなかったのだろうか。
それは平山があまりにもしっかりしているからだ。
カイジは急に自分が恥ずかしくなった。
18歳の青年がちゃんと人生を歩んでいるのに、自分の様は何だ。これでも真っ当に生きていると言えるのだろうか。
「ごめんな平山さん…今までその、奢らせたり……」
「いいんですよ、自分で言ったことですから。あと、さん付けしなくていいですってば」
「じゃあ…平山、これからは俺もちゃんとするから…」
「だから、いいって言ってるでしょう。ほら呑みましょう」
ね、と平山は笑うとジョッキのビールを一気に飲みほした。
カイジもゆっくり頷くと、同じようにジョッキを空にした。
「あのな、平山」
「何ですか?」
「その、俺に言われても説得力無いし鬱陶しいだけかもしれないけど」
「はい」
「ヤクザは、やめといた方がいいんじゃないか?」
「………」
「アンタはまだ若いんだから、そんな暗い道わざわざ進まなくてもいいんじゃないか?頭もいいんだし、他の道だって絶対選べるはずなんだから…」
「カイジさん」
「…あんまり、生き急ぐなよ」
カイジは眉をハの字にしながら言った。
年下とわかるるやいなや人の人生の心配をしはじめる。
カイジからしたら18歳なんかまだまだ子どもなのかもしれない。
平山は子供扱いされたことに気を悪くすることもなく、逆にカイジが自分の事を気にかけてくれたことが素直に嬉しかった。
「……考えときます」
「ああ」
カウンター越しに店員にビールの追加を頼む。
代打ちなんてしていれば、人に恨まれることもあるだろう。その内刺されるかもしれない。
きっとカイジはそういうことを心配しているのだろう。
平山は死が身近にあることは仕方の無いことなのだと割りきっている。
だが、もし死んでしまったら、もう二度とカイジと酒が呑めなくなってしまう。
それは嫌だった。
平山はカイジが好きで、駄目なカイジのサポートをするのが好きだった。頼られたかった。だから奢ることも金を貸すことも自らしているのだ。カイジに尽くしたかった。
カイジに心配され、今初めて死にたくないと思ってしまった。
「カイジさん」
「ん?」
「また一緒に呑んでくださいね」
「…おう」
「約束してください」
次もまた会えますように。
平山はアカギより年下がよい。