小説3
□駄目大人と見込み0
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バトンで決まったカプで小話を書こう誰得企画その5「南郷×ひろ」
「ズルいですよ」
「何がだ?」
「赤木さんがですよ」
「何でだ?」
「南郷さんを独り占めするからです」
「別にされた覚えはないんだがなぁ」
「してますよ。だって南郷さんの人生観まで変えちゃったんでしょあの人。死ねば助かる理論植え付けたり。だから南郷さんの殆どは赤木さんで出来てるんです」
「うーん(よくわからんなぁ)」
「ズルいですよ」
「んー、井川君が思ってるほど、アカギは俺にべったりでもないぞ。時々家に来るけど、それだけだ。アイツは根無し草だから」
「そういうのが嫌なんですよ」
「え?」
「お互いの事わかりあってるみたいな、信頼しあってるみたいな。ぶっちゃけムカつく」
「……………(この子怖い)」
「あーもうズルい!赤木さんズルい!爆発しろ!」
「何でそんなにイラついてるんだ…」
「オレだって南郷さんの人生観変えられるくらい南郷さんと一緒にいたいんです!もっとこう親密的な関係になりたいんです!」
「落ち着け冷静になれ服を脱がそうとするな」
「オレだって…!」
「やーめーろー!」
馬乗りになりシャツを脱がそうとするひろゆきを、南郷は逆に押し返した。
非力なひろゆきは呆気なく畳の上に転がってしまう。
しかしすぐに起き上がると、また南郷の足の上に跨がった。
「井川君」
「南郷さん……オレ、本気なんですよ…?」
今にも泣きそうなひろゆきの声と表情に、南郷は思わず口をつぐんだ。
ハの字に曲がった眉、潤んだ瞳、震える拳。
あまりにも必死なひろゆきの様子は南郷の心を大きく揺さぶる。
それでも南郷はゆっくり首を横に振った。
「…南郷さんはオレの事嫌いなんですか…?」
「そんなわけないだろう。ただ…君と同じ気持ちは持てないだけなんだ…」
「………振られた」
「…すまない…」
見るからに沈んでいくひろゆきに南郷はただすまない気持ちでいっぱいだった。
ひろゆきのことは好きだけど、恋愛感情での好きではないのだ。
かける言葉も見つからず、ただ重い静寂だけが場を支配する中、ぽつりとひろゆきが言った。
「…もし」
「……?」
「もしもオレがチキンランをして海に突っ込んで、すぶ濡れのまま南郷さんの前に現れたら、」
ポタポタと涙を流しながらひろゆきは言う。
「オレのこと好きになってくれるんですか……?」
ひろゆきの涙は止まらず、ぐしゃぐしゃの顔のまま南郷に抱きついた。
南郷も優しく抱き締め返してやる。
「多分……無いだろうな……」
「…酷いですよ…オレ見込みゼロじゃないですか……」
「俺みたいな駄目な大人を好きになっちゃいけないんだよ。君はまだ若いんだから、これからもっといい人を探した方がいいんだ」
「アンタがそのいい人なのに…」
ひろゆきは大きく溜め息を吐くと、南郷の足の上から自分の身体をどけた。
一発殴らせて下さい、と言ったら、いいよ、と言われたので、顔に渾身のグーをお見舞いした。
恋心も一緒に粉砕したようだった。
何という少女漫画。