西浦
□color/タジミハ
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ちっちぇー頃ひぃじぃに聞かされた話。
《人の感情には色がある》という話。
その時は全然意味も分かんなかったし頭にも入らなかったのに、何故か今そんな言葉が頭の中で響いていた。
***
……泣いてる?
誰が?
三橋が。顔を伏いて肩震わせて、同じ男で体格だってそんなに自分と変わらない筈なのにどことなくほっとけれないのに目の前にいる三橋はそれ以上にか弱く見えて。
泣くなって声に出してるのに口だけ動いて音にならず、
触れようと手を伸ばすけど伸ばした手は空を切るだけで。
三橋泣かせる奴は誰であっても許せねーのに三橋の口からは何度も俺の名前を呼んでて、側にいけたら誰より早く三橋が言いたいことが分かるのにそれすらも叶わず。
ただ目の前に三橋。
何も出来ずにあがくだけの自分。
周りには何もなくて−…
白で…
ただ白で…
泣いてる三橋をそのままに足が手が体が白にのみ込まれていく。
泣くな
泣くな
三橋−… み は
***
「…じまく、たじまくん」
さっきよりも三橋の声が耳元に聞こえる。
目の前に広がるのは『白い』壁で、
だけどさっきと違うのは三橋の声だけでなくガヤガヤとした喧騒。
体も温かくて手を誰かに握られてる感覚もちゃんとしてて、
さっきまでびくともしなかった手足も動かせるような気がして意識をそこに集中させてみた。
「…!田島君!」
そうしたら大きな目に涙を貯めた三橋が視界に入って、握られてない方の手を伸ばせば触れたくて仕方なかった髪や額に触れる。
触れる度に三橋は涙を溢しながら俺の手を確かめるように顔をくっつけて、よかったなんて何度も何度も呟いて。
「…みはし。俺…なんで?」
「た、田島君お 覚えてない、の?
お、俺庇ってくれて。
よか…った、うぐ、もうあのま ま 田島君と 話せなくなった らとか、お 俺 田島君とずっと話せなく て 辛くて。だけど どうして いいか も、わ 分からなくて。
謝りたかった のに。う、ご…ごめ んね。た 田島く ごめん ね。」
−−あぁ思い出した。
三橋と喧嘩してたんだ。
しょうもないきっかけだったんだけど、俺も三橋も頑固で謝りたかったのにそのきっかけすら掴めずにギクシャクしたままで。
喧嘩は初めてじゃないけど気まずいまま過ぎた時間がこんなにも長くなったのは初めてで。
どーしていいのかも分からず、だけど三橋が自分の近くにいないと不安だから目だけは常におってて、
だからあの時階段を踏み外した三橋に気付くことが出来たんだった。
好きなのに不安になって、
好きだからもっともっとって欲張りになって、
こんなに誰かを好きになるのなんて初めてだから小さなことも気にしてしまう自分の気持ちに追い付けなくなって恐くなった。
いつか三橋を泣かすんじゃないかって、
三橋から離れていくんじゃないかって、
「……御免。三橋。
心配かけて御免。みっともない嫉妬ばかりして御免な。
笑ってる三橋が大好きだからさ…泣くなよ」
「 お、俺も笑ってる田島君が大好きなん、だよ。
……だから……田島君も、泣かない、で?」
同じ気持ちになれば何もかもが楽しくって嬉しくって幸せなんだと思っていた。
けど、同じ気持ちだから苦しくって切なくって味わったこともない想いをすることがあることを知った。
「俺たち似たものどーしだな」
「ウヒ」
「三橋の泣き虫」
「た 田島君の 泣き、虫」
これから先抱えきれない想いを持ってしまった時は、似たものどーしな俺たちだから
一緒に泣いて笑って。
そうすればいつだって『色』がつくから。
泣いた時
笑った時
怒った時
照れた時
悩んだ時
沢山の色で描いていけれるように。
『白』の気持ちに色をつけていけれるように。
「ゲンミツに三橋大好きだ!」
「ゲ ゲンミツに田島く、が大好き、だ!」
二人の色は何色?
きっと今の二人は同じ色。
→end