西浦

□旅立ち/アベ→ミハ
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「阿部君…おれ、……福岡に行くんだ。」







***

満開に咲く桜の季節
今日俺達は三年間の学び舎を後にする。

式も終わり卒業証書を握り外に出てくる生徒がちらほら。
周りを見れば共に過ごした仲間と抱き合ったり写真をとったり、お世話になった先生に挨拶をしている姿ばかり…涙を流し皆、笑っている。
さっきまで同じクラスの仲間達と最後の儀式ともいえるこの見慣れた光景の中に俺も混ざっていた。。


その後、友達の輪から離れ一人赴く先はグラウンド。
これから最後の野球部としての活動がある。




一から始めたこの自分達で作り上げたグラウンドとも今日でお別れ。
グラウンドに立つと今も鮮やかに思い出す、毎日汗水流して頑張ってた日々。
それはきついものばかりではなかった。
きつさなんかよりも仲間達と過ごした三年間は本当に楽しさばかりで…

干渉に浸っていると後ろから声がかかる。

「本当に終わったんだな…」


振り返ると三年間チームの主将として頑張ってくれた花井。
その後ろからゾロゾロと集まってくる仲間の姿が確認できる。

グラウンドを見て何を思っているのか−…声をかけるなんて誰もしなかった。
自分達が守ってきた場所をただじっと見つめ、そんな時間がただただ流れていく。

確認しなくても俺達はきっと同じことを考えていたに違いない。
栄口の「楽しかった…よな」その返事を期待してるのかしてないのか曖昧な独り言に、俺達は頷くことしかできなかった。





監督達や後輩の挨拶をかねたミーティングが終わり、本当に西浦野球部としての活動に終止符が打たれた。

最後に皆で野球をした。

−…そして三橋と田島の送別会も行った。


進路は皆バラバラとなっていたけど、
ほとんどのやつが地元近くの大学や働き先を希望しそれが現実のものとなった。


ただ田島と三橋には地元の他にもいろんな所からスカウトされていた。

田島はその才能から真っ先に各球団にスカウトされ、この春から東京の球団に入ることとなり地元から離れることになる。


三橋は地元の大学と福岡の大学からスカウトされていた。
どっちも野球部の評判もいいし施設も申し分ない。
ただどちらかといえば福岡の大学の方が野球を専門としているから結果がいいというものだった。



三橋自身、地元の学校に不満なんてないから推薦された地元の学校に行くと一年前に言っていた。
三橋を推薦した大学に俺も行きたい学部があったから、また同じ学校行けるなって
また野球できるなって
一緒に喜んだ。

三橋は笑って喜んでたけど俺のがお前以上に喜んでたよ。
お前とのバッテリーを誰にも譲りたくなかったし
お前に抱いてる気持ちが特別なことなんて随分前から自覚してた。
だけど伝えきれなかった。
関係を崩したくなくて
ただずっと押し隠してた…
お前と一緒にいれるんなら特別な関係なんかじゃなくても、バッテリーとしてだけの関係でも
それが俺の特別な関係になるから。



だから三橋の決断を聞いた時、俺の感情をぶつけて三橋を傷つけてしまった。
狡いよな、お前は俺の気持ち知らないのに…
崩れる関係が怖くて伝えることから逃げてるのは俺なのに…

だけどあの時は
三橋が別々の道を進むことで一緒にいれるから我慢できた関係の繋がりがなくなることが何よりも怖くて。
お前の気持ちなんて考えられなかった。
お前の人生なのに俺の気持ちを押し付けてた。

ごめんな。
お前が誰よりも背中を押してほしかったのは俺なはずなのに、遅くなってごめん。

間に合ってよかったよ。
お前が意志強く持ってくれてよかった。





−……明日三橋は俺達から、この街から
一人旅立つ……−



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