西浦

□君いとほし/サカミハ
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−−朝な夕な ひき忍びたる 恋ゆえに つひに逢ひたる−−君いとほし




***

「栄口はいつも三橋のこと気にかけてるよな」


休み時間、巣山と次の授業で当てられる宿題を確認してる時に言われた言葉。
自分ではそんな風に思えなくて、でも確かに部活の時は阿部と三橋が一緒にいたらハラハラしてしまう気持ちがあることは分かっている。
だって阿部は短気だし三橋のことをすぐ叱る、それによって三橋もますます話せなくなるしで気にかけない方が変だろ?


「そぉ?でも巣山達だって気にかけるでしょ。それと同じだって!!」


「まぁそうだけどさ。栄口の場合おれ達と違うっていうか…なんかいつも気にかけてるっていうか。」

「そーかなぁ?俺自分で気づいてないかも。
そんなに俺三橋のこと気にかけてる?」


「うんまぁな。ほら、今朝とか特にさ、誰も気づかないような所で気づいてたじゃん。」


「今朝?−…あぁあれか」


いつものように朝練があって着替えて、たわいもない会話してた時、三橋が鞄を覗き少し表情が青ざめていた様に見えたからそっと側によって聞いてみた。そしたら三橋はいつも以上にどもりながら何かを訴えていて、理解しようと話を聞いていたら田島から適切な言葉が返ってきた。


「…でもあれは田島のおかげだよ。だって俺三橋が宿題忘れたって言う言葉聞き取れなかったしね。気にかけてるっていったら田島や泉と、あと阿部だよ」


三橋の言葉をいち早く理解した田島。

青ざめる三橋をいち早く安心させた泉。

怒りながらもいつの時間に必要で持ってるやつがいないか聞いていた阿部。

三橋が忘れてた宿題がちょうど俺達のクラスにも出てたもので、三橋達のクラスよりも先に授業があるから終わったら貸すよって言っただけの俺。

少し悔しいって思ったんだ、もし俺が一番に理解できてたら、安心させてたらあの笑顔も「ありがとう」っていう言葉も俺だけだったのになって。

三橋の力になりたかったんだ。
あんなにも努力していて誰よりも頑張ってるのにいつまでも悪い考えしか出来なくて、中学の時に楽しい思い出が作れなかったんならここでいっぱい作ってほしいなっていう気持ちがあって。

それで三橋を気にするようになった。
それは皆も一緒だと思ってたのに違うのだろうか。

「ん〜田島の場合はさ、三橋の言葉を理解してる感じがするんだけど、栄口の場合はさ三橋が何か言う前に気付くことが出来てるんじゃねぇかなぁ。っと、やべ先生きた!!じゃぁな」



巣山が席について、6限目の授業が始まる。

得意とする古典の授業を受けているなか、外に目を向けると何処かのクラスが体育をしているのだろうか、体操着をきた男子生徒が見える。
その姿をボーっとみていたら浜田さんと三橋がいて、(あぁ9組か、田島と泉はあのサッカーしている集団にいるんだろうな)なんてことを考えていたら、

三橋がこっちに気付いて手を振っていた。

楽しそうに、だけど少し遠慮がちに手を振る三橋が三橋らしくて 俺も先生に見つからないように小さく手を振り返す。
それが嬉しかったのか三橋はまた笑ってて幸せそうな顔。

自分までが暖かくなるようなその笑顔。


斜め後ろに座る巣山が困ったように笑いながら「ほらな」って口だけ動かして俺に伝える。



それからは三橋ばかり目がいってしまって、今までもこうだったのかなって思ったら巣山から言われた言葉にも納得してしまった。

悔しい思いをしたのも
いつも三橋のことを気にしてしまうのも、
全部全部、三橋だから。

三橋のことが大切でいつも笑っててほしいから。

そこにいつも自分が近くにいたいから。



***
「さ栄 口君は、い いい人だ!!」

「ありがとう三橋。だけど俺がいい人なのは三橋だからだよ?」

「う オレ?」

「うん。まだ分からなくてもいいよ。
俺諦めるつもりないし誰にも負けるきもしないしね」

「??ど どーいう こと?」

「ん〜これからも一緒にいさせてねってことだよ」


もう、いい人 だけじゃ足りない自分に気付いてしまったから。
誰にも譲りたくない本当の意味を。。



夕染めなる空を見上げ思いだすは今日授業で習った一つの和歌。




−−朝な夕な ひき忍びたる 恋ゆえに つひに逢ひたる
−−君いとほし


【毎朝毎夕 あなたへの思いを隠しておりましたが 忍んだ気持ちの末に逢えば、あなたがたまらなく愛しい】


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