西浦
□夢追馬/サカミハ
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俺がまだ姉ちゃんに手を引かれていて、弟なんてまだ赤ん坊だったようなそんな昔の話。
一人でまだ出歩いたり出来なかったような俺だったから母さんの記憶はアルバムの写真より少なくて…。
辛うじて覚えてる曖昧な記憶だっていつも母さんは病室の中にいて、
だけど一つだけはっきりと覚えてる思い出だってあった。
・・・母さんが大好きだった場所。
夢追馬/サカミハ
中学生にもなれば異性に特別な感情を持ち始めて、それが両思いとなれば一躍ヒーローみたく扱われるのなんて常で。
彼女持ちの男からの話を聞くというのは、どんなに面白いと言われてるような新作ゲームにも勝るくらい興味をそそる物だった。
野球やゲームが好きな俺も、勿論そのなかの一人だったりしてた。
自分も高校生にでもなれば、可愛くてずっと一緒にいたいって思えるくらい大好きな女の子と出会って一緒に帰ったり、休日になればデートしたりするんだって期待してたりして・・
そして本当に西浦でずっと一緒にいたいて思えるくらい大好きな子と出会えた。
本当に大切な子が出来たら一緒に行きたいとずっと思っていた大切な場所に三橋を誘った。
あの頃は自分が同性に恋するなんて微塵にも考えてなく、今だって自分が同性が好きだとかではない。
ただ『三橋』が好きなだけで、『三橋』が大切だと、守りたいと強く思っただけのこと。
ずっと側にいたいって想う気持ちに同性だとか異性だとか俺にとっては些細なことだと思えるくらい今隣にいる三橋の存在は大きくて。
だから、
大切な場所の前で三橋に伝えたい言葉があるんだ。
「ねぇ三橋。今日遊びに誘ったここ、俺にとって大切な場所なんだ。」
「うっと、ゆーえんち、が?」
「うん。正確に言えば俺の父さんと母さんのだけどね」
はっきりと覚えてる記憶。
白い病室のベッドの上で父さんがいない時こっそりと俺にいつも聞かせてた話。
「俺の母さんってさ結構ロマンチストで昔から遊園地が大好きで、その中でもメリーゴーランドが大好きだったらしいんだ。」
--『流石に乗れなかったんだけどね』って残念そうに、でも可笑しそうに笑ってる母さんの顔が今でも思い出せる。
「それを知った父さんが急にプロポーズしてきたらしいんだ。
付き合いも長かったし母さんもそろそろかなとは思ってたみたいだけどね、デートの最中で突然だったし、『ずっと一緒にいてくれ』ってここの売店で売られてる指輪を突き出してきて…全然ロマンチックじゃなかったんだって。
でも自分が大好きな場所で大好きな人から貰った言葉が嬉しくて、何より不器用な父さんが父さんらしくてとても幸せな思い出だって母さん笑ってたんだ。
父さんも父さんなりにロマンチックにびしっと決めるようホテルや指輪を前々から予約してたみたいだったんだけどね、母さんは指輪もプロポーズもここで貰った時の方が何倍も嬉しかったんだって。」
「す 素敵な話、だ ね。」
「ふふ、ありがとう。
数少ない母さんとの思い出だからかな、俺もなんだかここが大切な場所なんだ。だから三橋と来れてよかった。」
「お オレが初めて?」
勿論と言えば恥ずかしそうにはにかむ三橋を見て心が暖まるのが分かる。
「あ あのね、オレにとってもここが大切な場所に、なったよ。だって ここが栄口くんの 大切な場所だったら、 さ 栄口君が大切なオレにとっても大切なんだ。
大切がぐるぐる回る、ね。
…ふひ//メ メリーゴーランドだ、ね!!」
母さんが大切な場所が俺の大切な場所、俺の大切な場所が三橋の大切な場所で三橋の大切な場所は俺にとって…
「っぷ。ははは本当だね」
「ふひ」
お腹を抱えて声に出して笑ってたのに何故だか込み上げるものがあって。
それは寂しいからとか悲しいとかじゃくて優しい記憶から生まれてきたもの。
三橋には気づかれないようにこっそりと笑いながら涙を落とした。
「ねぇ三橋。」
「う、ん?」
まだまだ俺達は子供でこれからどうなるかなんて分からないから、
父さんのようなプロポーズは出来なくても、
きっと変わらない想いだけを伝えよう。
「ずっと大好きだよ。」
きっと母さんも記憶にあるようなあの笑みで見守ってくれていると信じているから・・。
→end