novel

□世界一初恋~柳瀬優の場合~
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‐失恋した・・・。何故お前は俺を選んでくれなかったのだろう・・・。何故お前はアイツを選んだのだろう・・・。俺とアイツの違いは何なのだろうか・・・。‐

「おはようございます」
漫画家のアシスタントとして働いている柳瀬優は今日のアシスタント先である斉藤先生の職場へと出社した。
「おはようー、今日はよろしくね」
「はい」
斉藤先生は月刊ジャプンで連載している大御所作家だ。もの優しい性格でアシスタントからも編集からも好かれている。仕事の計画性もしっかりしている。
「優君、早速だけどここの背景お願いね」
「はい」
自分の席へ付き作業をはじめる。
柳瀬は丁寧かつ正確に描いていく。プロアシとして柳瀬は引っ張りだこでもあるのだ。
「おはようございまーす」
しばらくして仲良し2人組の女のアシが入ってきた。
「おはよう2人とも、今日も仲いいね!」
「はい。今日も仲良く頑張りまーす」
この2人は斉藤先生の専属アシとして数年間ここで仕事をしている。

コンコン、ドアをノックする音。
「はーい、どうぞー」
「・・・失礼します」
「来たかー、皆に紹介するよ。新しいアシスタントだよ。」
「川澄真冬といいます。よろしくお願いします。」
その顔を見た瞬間柳瀬に衝撃が走った。
そっくりだったのだ。数日前失恋した相手に・・・。
「優君、指導してあげてね」
「え・・・」
「よろしくね」
ポンと左肩を叩かれた。
「よろしくお願いします!!」
「あぁ・・・」
本当にそっくりだ。年は柳瀬よりも下そうである。柳瀬は動揺していた。

‐俺は確実に意識している。くだらない。俺はあいつの顔が好きな訳じゃないのに・・・。何でお前はそんな顔なんだよ・・・‐

「あの、柳瀬さん?!」
「な、何?!」
「! あ、あのここは・・・」
多分凄く怖い顔をしていたのかもしれない一瞬川澄の顔が強ばっていた・・・。

‐クソッ、何やってんだよ俺は‐


「よーし、今日はここらへんにしとくかー、今の作業が終わったら今日はもう上がっていいよ」
「はーい」
仲良し2人が元気に返事を返す。

柳瀬はふと川澄の方を見る。
今日はずっとこんな感じだ。気がつけば川澄を見ている。そのせいで今日は集中できていなかった。
真面目で努力家っぽいその横顔は見れば見るほど千秋に似ていた。

「お先にしつれいしまーす、お疲れ様でした〜」
「はーい、お疲れ様。最後まで息ピッタリだねー、あの2人は」

カタンっと隣で席を立つ音がした。
「先生、これでよろしいでしょうか?」
「うん、上出来だよ。お疲れ様」
どうやら先生からのオッケーが出たようだ。
川澄は席に戻り帰り支度を始めた。
「あの、柳瀬さん、いつでもいいんでお時間頂けないでしょうか?」
「は?」
「え・・・・っと、俺もちろん斉藤先生からもいろいろ学ばせて頂くつもりですが、柳瀬さんからもいろいろと教わりたくて・・・」
「ふーん、じゃ、都合のいい時連絡するから」
柳瀬はドキドキしているのが気づかれない様に素っ気なく返した。
「はい。ありがとうございます。先生もよろしくお願いしますね。お疲れ様でした!!」
「あいよー」
川澄の性格は千秋とは全然違う。
「真冬君は頑張り屋さんだよねー、応援したくなる」
「そうですね・・・」
千秋に似ているせいか川澄に対してモヤモヤとした感情が湧き上がってきているのを柳瀬は感じていた。
「終わりました。チェックお願いします」
「うん。おっけー。お疲れ様」

斉藤先生の職場を出て柳瀬は暗くなった空を見つめる。
‐約束・・・になるのか・・・アレ・・・。変に意識するから悪いんだ。あいつ(川澄)はあいつ(千秋)じゃないんだ。‐
柳瀬はそう言い聞かせ自宅へと急いだ。
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