書庫(短編)
□去年の自分を超えていけ
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日輪から問われ、月詠はすぐに言葉を返した。
「去年もそうじゃったし、今年も同じようにと思っておりんす」
「月詠、形式的な付き合いであれば、それでもいいかもしれない。けどね、万事屋さんらは形式的な付き合いじゃないだろ?」
「それは、そうでありんすが」
「だったら、答えは言わなくてもわかるだろ?」
月詠はしばらく考え込んで、ある答えが浮かんだ。
「て、手作りで、ありんしょか?」
「そ、その通り」
「じゃが、わっちは料理やら、それ関係の手作りは苦手なんじゃが」
「誰だって最初は下手に決まってる。大事なのは思いの強さよ。思い入れが強ければ、それだけいいモノが出来てくる。料理てのは、そうしたものさ」
日輪に言われて、月詠は今までやった事はないのだが、取り組んでみようという気になった。
ただ、月詠には別の問題があった。それを渡すことが出来るかどうかであった。
「去年、わっちはまともにチョコを渡せなんだ。何か調子が狂うというか、妙に意識してしまうというか。今年もそうなってしまうのではないかと」
「それは仕方ないさ。好きな男に渡すとなれば、意識してしまうのは当たり前。いいじゃないのさ、そうした関係がまだ続いているのなら」
「面と向かって渡すのは恥ずかしくて、どうしようもなくなる。いつものわっちらしくないと思われるのは嫌じゃし」
「そうだねえ・・・わかった!そこは任せときな、心当たりがあるから、そこに聞いてみるから」
「日輪、どうして」
「だから、しっかり自分の手から渡すんだよ、銀さんに」
「いやっ、ほれ、そんな本命を渡すなどと」
「あたし、本命だなんて、一言も言ってないんだけどぉ」
月詠は顔中赤くなって黙り込んだ。日輪の強力すぎる後押しを受け、月詠はバレンタインに向けての行動を開始した。
翌日、“百華”の番所にて、月詠は休憩時間を使って“手作りチョコの奥義”という本を眺めていた。
「ふむ、チョコレートはただ溶かすだけではダメなのか。意外と面倒でありんすな」
月詠はパラパラと本をめくっては、気になる箇所には付箋紙をつけていた。真面目な月詠らしく、その本はカラフルな付箋紙がはみ出していた。
「作るのも一苦労、渡すのも一苦労。なかなかに前途遼遠じゃな」
そんな時、甘いものにニヤついている坂田銀時の顔が浮かんだ。銀時が何かしたわけではないのだが、月詠は何だかイラついた。
「ぬしのせいじゃぞ、わかっておるのか。ぬしはおってもおらずとも、わっちの心を乱してくれる」
憎まれ口ではあるが、月詠は微笑みながら呟いた。