書庫(蜃気楼)
□魂掛けクレーン
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一方、吉原の『ひのや』では。
「晴太、どうしたんだい?」
「え、オイラ?」
「何というか、ソワソワしてるっていうか」
「もうすぐバレンタインだから、そりゃあソワソワもするって。銀さんや新兄はもらうんだろうなあ」
日輪は晴太のつぶやきを、ニコニコしながら聞いていた。吉原には、晴太と同年代の女の子はまずいない。それを求めるなら、地上でしかない。
「当てはあるのかい?」
「当て?」
「チョコをもらえる相手のことさ」
「そりゃあ、ないこともないけど」
そんな時、月詠がお使いから戻ってきた。日輪は月詠を出迎えに行った。
「ご苦労様」
「日輪の頼まれものは買うことが出来んした」
「そうかい。ほら、お茶用意したから、茶の間へ来なさい」
「うむ」
茶の間には晴太もいた。一足先に茶をすすっていた。
「晴太、戻っておったか。店の方は?」
「今日は終わったんだ。さっき帰ってきた」
「そうか」
日輪も加わって、三人揃って茶をすすったり、茶菓子を食べたりする。
「そういえば、もうすぐバレンタインだねえ。オイラ、もらえるかな?」
「もらえるだろうさ。あんたがいい男ならね」
「まずは、母ちゃんと月詠姐だろ。あと、地上のたまさんとか。そうだ!神楽ちゃんからもらえるかな」
「晴太、必死じゃの」
「去年だって、月詠姐が神楽ちゃんからのチョコ取り上げたじゃないか。忘れてないからね」
「確かに、ぬしは神楽とは仲が良かったな。大丈夫じゃ、今年ももらえるじゃろ」
「晴太は神楽ちゃんのこと、好きなのかい?」
「うん!好きだよ、神楽ちゃん」
「じゃあ、今年ももらえるといいね」
「うん!」
「月詠は?」
「万事屋さんらに送るんだろ?チョコ」
「ま、まあ、送ろうとは思うてはおる。まあ、今日見たら、けっこうな種類がありんした。そこで買っていっていこうと」
「そうかい。まあ、万事屋さんには、やっても損はないからね」
日輪は茶を飲みながら、月詠に言った。月詠はこれに頷いた。
「晴太、疲れただろ?部屋に戻って休んでな」
「わかった、じゃあお先に」
晴太は茶の間から去っていった。部屋に入って、寝転がる。
「嬉しかったなあ、去年のバレンタインは。神楽ちゃんからもらえると思ってなかったから余計に」
晴太は、去年のバレンタインからの一年を思い返していた。
「大江戸プールとか楽しかったし。神楽ちゃんとスケベイスライダーや冒険号に乗ったりして」
去年の夏、大江戸プールでの出来事を晴太は思い出していた。スケベイスライダー、冒険号(将ちゃん)に乗ったとき、本当に楽しかった。神楽が側にいてくれたから。
去年のように、また神楽からチョコをもらいたい。晴太はそう願っていた。