書庫(蜃気楼)
□あなたに恋い焦がれ
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新八とパンデモニウムの間に、妙な沈黙が流れた。お互いが自分に対する気持ちを知って、強く意識してしまったためである。
「パンデモニウムさん」
「え、あ、はいっ」
「僕は、パンデモニウムさんを意識してしまっています。あなたに焦がれている自分がいます」
「本当に?私を?嬉しい、こんな私に」
「こんな私だなんて、言わないでください。パンデモニウムさんは素敵です。出会いはあんな形だったけど、何度あなたに出会っても僕の気持ちは変わらないでしょう」
お互いに頬を赤く染めて、しばらく新八とパンデモニウムは視線を合わせなかった。新八がゆっくりとパンデモニウムを見た。パンデモニウムと目が合って、彼女も新八の顔を見つめた。
「僕はあなたを食べてしまいたい。リアルに食べたいってわけじゃないからね。念のために。あなたの心の中を僕で埋めたい。僕の事でいっぱいにして、僕の事以外、考えられないようにしたいんです」
「新八様、私、嬉しいです。私は式神たちに食べられる運命、その事しか考えられなかった。私は新八様と出会って、全てが変わりました。私の心は新八様でいっぱいなの。新八様の事しか考えられないの」
恥じらいながらも、自分の気持ちを告げるパンデモニウム。その姿は恋する乙女そのものだった。
恥ずかしさを隠そうとして、パンデモニウムは前髪をしきりに弄りだした。
その仕草に思わず、新八はパンデモニウムを抱き寄せた。突然の事に戸惑ったパンデモニウムではあったが、すぐに新八に身を委ねた。
「あ、ごめんなさい。思わず抱き締めちゃって」
「ううん、いいの。初めて、新八様に抱き締められた。心が安らぐような、いい気分」
「パンデモニウムさん」
「は、はい」
「あの、あのね。キスしたいんだけど、いいかな?あ、ああ、ごめんなさい!嫌ならいいんで」
「嫌じゃないよ。私も・・・してほしい」
パンデモニウムはゆっくりと瞳を閉じた。新八の脳裏にパンデモニウムとのキスシーンが蘇る。新八とパンデモニウムの顔が徐々に近づく。唇が重なり合う瞬間はもうすぐだった。
「はっ!パンデモニウムさん、パンデモニウムさんはどこ?あれ、いない。何でいないの?」
新八は辺りを見回した。先ほどまで一緒にいたパンデモニウムの姿はない。しばしの時間を置いて、事情を理解した新八はわかってはいながらも叫ばずにはいられなかった。
「夢オチかよぉぉぉぉぉ!!!」
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