書庫(記念・企画)

□恋は盲目とはよく言ったもの
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様子は変わらないものの、晴太は日輪が明らかに憤っていることを感じ取った。恐る恐る、晴太は日輪に尋ねた。


「あの、母ちゃん、怒ってるの?」

「まあね。足が動けば、あの天パ侍をひっぱたきに行きたいくらいさ」

「まさか、銀さんが結婚するなんてさ。オイラ、てっきり月詠姐と」

「そうあってほしい。あたしらは当然そう思ってるさ。けどね、世の中はそううまく行かないことが多いから」

「でもオイラ知ってるよ。月詠姐が銀さんを好きだってこと。あと、銀さんだって月詠姐のことを・・・」


日輪と晴太は知っていた。月詠が銀時の事を愛しく想っていることを。そして、銀時も月詠の事を想っていることを。二人は隠しているつもりであったが、日輪と晴太には丸分かりであった。そんな二人のやり取りを見ているからこそ、銀時が月詠以外の女性と結婚するということが信じられなかった。


「ねえ母ちゃん。これ、月詠姐には見せないほうがいいんじゃないかなあ?」

「う〜ん、そうねえ。どうしたものかねえ・・・って、うん?」


日輪は年賀状に映っている銀時に違和感を覚えた。念のために何度も確認してみた。日輪は違和感という感覚が、確信に変わったことを認識した。微かに口元を上げて、日輪は晴太に言った。


「晴太、これ、月詠に見せておやり」

「え、でも、こんなの見せちゃったら、月詠姐が」

「いいんだよ。現実に起こったものなら仕方ないじゃないか。銀さんが選んだ道なんだから、それに対して、あたしらがとやかく言うことじゃないからね」

「いいの?月詠姐、すっごく悲しむよ。絶対絶対、悲しむと思うよ」

「どうするかを決めるのは月詠しだい。まずはこれを見て、あの娘がどう思うか。隠すことはしないで、ありのままを。さ、これを持っていってやりな」


日輪に促されて、晴太は月詠の部屋に向かった。向かう晴太の心は陰鬱であった。はっきり言って、気が重い。この一言に尽きた。月詠がこの年賀状を見て、どう思うのか。晴太には容易に想像できるからである。

そうこうしているうちに、晴太は月詠の部屋に行き着いた。しばらく思案していたが、意を決して晴太は声をかけた。


「月詠姐、起きてる?」

「晴太か、起きておるぞ。入りなんし」


戸の向こうから月詠の声が聞こえた。できれば寝ていてほしかった。残念に思っても仕方ない。晴太は戸を開けて、月詠の部屋へ入っていった。
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