書庫(キリ番)
□初対面は最初の会話の切り出し方が難しい
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志村妙は『万事屋銀ちゃん』に向かっていた。万事屋銀ちゃんの従業員である、弟の志村新八に忘れ物を届けるためであった。
階段を上がり、入口まで行き着いた。いつものように、妙は呼び掛けた。
「銀さーん、新八、神楽ちゃんいらっしゃる?」
返事がないので、妙は再び戸を叩いた。すると、こちらへ向かう足音が聞こえてくる。そして、戸が開かれると、妙にとっては初めて見る人物が目の前に現れた。
「あら、間違えちゃったかしら。ごめんなさい」
そう言って、妙は戸を閉めた。一瞬、場所を間違えたのかとも考えた。しかし間違いはない。間違えようがない。
妙は再び戸を開けた。やはり、先ほどの人物が目の前にいた。どうやら待っていてくれたらしい。
「あなた、どちら様?」
「わっちは死神太夫・月詠でありんす。ぬしは何者じゃ?」
「あたしはここの従業員である志村新八の姉で、妙と申します」
「新八の姉御殿でありんしたか。初対面とはいえ、申し訳ない。今、万事屋のメンバーは席を外していて。あ、姉御殿、いつまでも立ち話もなんじゃし、早く上がりなんし」
促されて、妙は応接間に移動する。月詠はてきぱきと動き回り、お茶を出してきた。
「要領を得ぬゆえ、許してもらいたい」
「まあ、これはご丁寧に」
妙は月詠をじっくりと見た。顔に傷はあるものの、端正で美しい顔立ちをしている。たたずまいもしっかりして、先ほどの応対も気持ちの良いものだった。
中でも妙の目を一番引き付けたのは、月詠が自分にはないものを標準装備していることだった。言うまでもなく、月詠の豊かな胸のことである。服の上からでも分かるふくよかな胸を妙は羨ましがっていた。自分が彼女ほどの胸になるには、どれほどのオプションを装備せねばならないだろうか。
一方の月詠も妙をじっくりと見ていた。おしとやかでいて、芯の強そうな顔立ち。弟の新八は万事屋においては、常識人であると月詠は認識している。姿形からして、女らしさを身に纏っている。そう感じた。
おそらく、自分にはどうやっても持ち得ないものをこの女性は持っているのだろうと。